若者世代に合った分かりやすさとテンポ感
「コロナ禍で最近は止まってしまっていますが、最近、中国大陸ではインターネット向けのドラマが盛んに制作されていました。若い人はいまやドラマといえばインターネットで見るもの、という感覚になっていて、そういう若者向けに10分くらいの短いドラマを予算をかけて制作するのがブームになっていたのです。そういう『分かりやすいドラマ』を好む視聴層に『半沢直樹』の演出は、しっくり来たのだと思います」
つまり『半沢直樹』の演出手法は「ネット向き」で「若者向き」の演出だったということが言えるのではないかというのだ。テンポが良くて、単純に分かりやすい、という要素は現在の若者のニーズに合っているという側面があると言えるのかもしれない。
では、韓国ではどうだろうか。実は韓国でも『半沢直樹』は人気なのだという。韓国ドラマに詳しい韓国ライターの児玉愛子さんはこう話す。
「韓国でもケーブルの日本専門チャンネルで放送されていたり、不法アップロードなどもあって、日本で評判になったドラマなのでよく見られています。韓国人は復讐ものが大好きで、勧善懲悪が好きですね。みんな実生活は大変ですから、ドラマを見てスカッとしたい! というのは確実にあります」
「アップを多用する演出」は古い
どうやら韓国でも、日本とほぼ同じ理由で人気を博しているようだ。もともと日本と同じく儒教思想の国で、「勝ち組と負け組」の格差や、自殺率の高さなど社会問題にも共通する点も多い両国では、コンテンツに求められる要素も類似して当然なのかもしれない。児玉さんは「梨泰院クラスは韓国の半沢直樹である」とする論考も書かれている。確かに、ふたつのドラマの構図は似ている点が多いと言えるだろう。
では、韓国の人は『半沢直樹』の「顔芸・どアップ」についてはどう感じているのだろうか。児玉さんはこう指摘する。
「かつて韓国にもアップを多用する監督がいました。その監督の撮り方は韓国で『古い』といわれ、ロングが多いイ・ビョンフン監督の『チャングム』なんかが映像もキレイで支持を得たんですよね。韓国ではまさに『チャングム』の頃、明暗が分かれました。
『冬ソナ(冬のソナタ)』も美しい風景が入ったのもよかったと思っています。アップが多いと疲れちゃいませんか?(笑)」
韓国では「アップを多用する演出」は古いとされているという。むしろロングで美しい映像を撮影し、映像表現を豊かにすることが大切で、そうしたドラマの人気が高いのだ。『半沢直樹』の「顔芸・どアップ」については「外国のドラマだから」という理由であまり気にされていないのではないかと児玉さんは分析する。
韓国ドラマは「世界を見て」制作されている
「われわれがインド映画を見て、出演者がいきなり踊り始めても別に気にしませんよね? 『インド映画はそういうものだ』と思うだけです。韓国の人が『半沢直樹』の顔芸、どアップを見ても『日本のドラマだから、そういうものなんだな』と思うだけで、あまり気にしていないんだと思います」