官学の雄・東京大学の総長選が揉めている。候補者の選考過程に疑義があるとして、学内の研究所の所長や学部長などが連名で質問状を出す異例の事態となっている。いったい何が起きているのか。チーム「ストイカ」を率いる阿部重夫氏が深層をリポートする――。

どの報道も「誰と誰が対立しているのか」が抜けている

「隔靴掻痒」とはこれを言う。東京大学が6年に一度の総長選で、何やら大揉めなのはお聞き及びかもしれない。9月半ばからテレビや新聞で「選考過程をめぐって質問状や要望書などが相次ぐ異例の事態」(NHK)が報じられているからだ。しかし、どのメディアの報道も誰と誰が対立しているのか、という肝心な構図が抜けている。

東京大学の五神真総長
「国際生産工学アカデミー第68回総会」で祝辞を述べる東京大学の五神真総長=2018年8月20日、東京都文京区の同大安田講堂(写真=時事通信)

テレビドラマ『半沢直樹』の人気は敵役にある。大和田常務、伊佐山部長、簑部幹事長らを演じる名優、怪優が悪党ぶりを競った。さて、こちらの令和版「東大紛争」の敵役は、三代前の第28代東大総長で現三菱総研理事長の小宮山宏氏である。今回は総長選考会議の議長として選考過程を牛耳った。それに対し、学内から猛反発が起きているのだ。

東大の総長選は、代議員会(予備選)の投票で選ばれる学内候補者10人程度と、学外の委員からなる経営協議会が推薦する2人程度、計12人程度の「第一次総長候補者」から選ばれる。第一次総長候補者は、学内8人、学外8人の計16人で構成する「総長選考会議」で3~5人の「第二次総長候補者」に絞り込まれる。

「第二次総長候補者」が決まると候補者の氏名が公表され、全学の教授会構成員(教授、准教授、教授会を構成する講師)による意向投票(本選)が行われる。通常はこの本選で過半数を得た候補を、総長選考会議が「総長予定者」として決定。文部科学大臣に上申して任命してもらう(編註:記事末尾で「東大総長選の仕組み」を図解)。

7月7日の「予備選」で選ばれた11人の氏名

本来、代議員会(予備選)の投票で選ばれる候補者名は非公表だが、今回は教員有志がその氏名を公表している。7月7日の予備選で選ばれたのは以下の11人だった。

相原 博昭 :大学執行役・副学長、元理事・副学長、元理学系研究科長
石井 洋二郎 :中部大学教授、元理事・副学長、元総合文化研究科長
大久保 達也 :理事・副学長、元工学系研究科長
太田 邦史 :総合文化研究科長
梶田 隆章 :宇宙線研究所長(ノーベル物理学賞を受賞)
佐藤 岩夫 :社会科学研究所長
白波瀬 佐和子 :理事・副学長、人文社会系研究科教授
染谷 隆夫 :工学系研究科長
福田 裕穂 :理事・副学長、元理学系研究科長
藤井 輝夫 :理事・副学長、元生産技術研究所長
宮園 浩平 :理事・副学長、元医学系研究科長

得票順位は以下の通り(丸カッコは辞退者)。

1 宮園浩平   67票
2 藤井輝夫   54票
3 (梶田隆章  24票)
4 白波瀬佐和子 23票
5 大久保達也  20票
6 福田裕徳   18票
7 石井洋二郎  16票
8 染谷隆夫   14票
9 相原博昭   14票
10 太田邦史   13票
11(佐藤岩夫  13票)

2015年にニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞した梶田氏と社会科学研究所長の佐藤氏は選考を辞退した。