学外委員の一人は「五神総長は晩節を汚した」と憂う
絞り込みの結果、予備選2位の藤井氏と、経営協議会推薦の永井氏が残ったが、なぜか予備選8位だった染谷氏も残った。工学系2人、出戻りの医系1人という第二次候補の偏った顔ぶれに、学内の多くは愕然とした。東大総長は暗黙のうちに文系と理系のたすきがけだったが、有力だった法学部長が外に出たため変則になったとはいえ、工学系の優遇の裏に染谷氏を本命に仕立てて「傀儡」にするのではないか、という小宮山―五神ラインへの疑心暗鬼が募ったのだ。
小宮山氏は後継総長の浜田純一氏(法学部)と折り合いが悪かった。そこで理学系の五神氏を次の総長にかついだ。五神総長が小宮山氏に従順なことは、今回の選考会議で一気に露呈した。
五神総長のもとで、東大は初の大学債を発行することを決めている。償還期限40年で、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券を主幹事に指名し、日本格付研究所(JCR)から最上級の「トリプルA」、格付投資情報センター(R&I)から「ダブルAプラス」の格付けを取得した。調達資金は先端研究施設の整備にあてるとしているから、配分を誰が仕切るかが問題である。
五神総長は「東大債の行方を見守りたい」と言い、染谷氏は選考会議の面接で「五神先生と二人三脚で取り組みたい」と述べているからミエミエとも言える。学外委員の一人は、露骨な議事壟断に「夜も眠れなかった」ともらしたほどで、「五神総長は晩節を汚した」と憂う。
「本選」で1位の藤井氏が総長に選ばれることはあるのか
この下心を嗅ぎ取った学内有志が、本選にあたる意向投票の延期を求める運動を起こし、NHKなどを動員した。有志の公開質問状に対し、五神執行部も小宮山議長も木で鼻をくくったような返答しかしていない。
執行部批判は法学部、文学部、医学部、薬学部長や梶田氏ら研究所長に広がり、要望書や質問状を出していたが、9月30日の本選を予定通り行うことでいったん矛を収めたのは、選考過程の事後検証を執行部が約束したからだ。7日の選考会議は録音されている。誰がどんな発言をし、他の候補をどう落としていったかは、言い逃れできない証拠になる。それは追い追い明かしていこう。
実は9月30日の本選ではサプライズがあった。結果は以下の通り。
永井 良三(自治医科大学学長)232票
藤井 輝夫(理事・副学長) 951票
白票 251票
投票総数 2069票
有効投票数 1818票
過半数 910票
ダークホースだった藤井氏が一発で過半数をさらい、いかに小宮山―五神―染谷ラインに学内の反発が強かったかを証明してしまった。しかも白票が251票も出たうえ、永井票をも上回って、推薦した学外委員もメンツ丸つぶれである。
ただし、総長選考会議の内規によれば、意向投票の結果は「調査」と合わせて考慮することになっている。小宮山―五神ラインはこのサプライズにどう対処するのか。それは10月2日の小宮山議長の記者会見のお楽しみだ。この記事はその予告編、いや露払いである。