松下幸之助、井植歳男両氏も尊敬
「IT業界の若手起業家」として頭角を現しつつあった王CEOは当時、「ビジネスの知見は、子どものころから読んできた企業家の伝記から得ている」と話し、「(黄金期のフォード・モーターの社長を務め、クライスラー会長に転じた米自動車業界の英雄である)リー・アイアコッカ氏、(パナソニック創業者の)松下幸之助氏、(三洋電機創業者の)井植歳男氏に特に強い印象を受けた」と続けた。
さらに、「(中国最大級の不動産グループ)万科集団トップの王石氏(69)、ハイアールトップの張瑞敏氏(71)も、稲盛和夫氏は次元が違う」と強調した。
王氏は2013年にハイアールの張氏と知己を得たことをきっかけに、中国企業家第一世代と呼ばれる大物経営者たちと交流を始め、企業見学もさせてもらったという。
その中で、「インターネットビジネスの思考とはどんなものか」と問われ、「ビジネスの本質はネットに限らず同じではないか」と感じ、改めて稲盛フィロソフィの深遠さや日本人企業家のマネジメント思想の奥深さを実感したそうだ。
直接面識のある大物経営者の名前を挙げて、「稲盛氏にはかなわない」と発言するのは、王CEOの勇気と信念の表れだろう。
同氏は『生き方』読んで、「企業家にとって最も難しいのは時代にいかに順応するかで、人にとって最も重要なのは、いかに正確な道を歩くかだと考えるようになった」と語っている。
「昭和」な価値観がマッチする中国テック界
稲盛氏は88歳。著書や講演では仕事に没頭することが大事だと語り、「ワークライフバランス」「共働き」がキーワードの令和から見ると時代錯誤な感じを受ける。
一方で10年以上前に稲盛氏の著書を読んだ20代の中国人が経営のヒントを得て、その後アリババやトランプ政権を警戒させる企業をつくりあげたことは非常に興味深い。
中国は成長が鈍化したと言われるが、起業家にとってはなおビジネスチャンスにあふれている。アリババやファーウェイのようなメガIT企業は軒並み「ブラック」な働き方を強いられるが、それでもトップエリートをひきつける。
稲盛氏は「神様が手を差し伸べたくなるほどに、一途に仕事に打ち込め。そうすれば、どんな困難な局面でも、きっと神の助けがあり、成功することができる」との言葉を残している。
日本人の多くはそこに「昭和」を感じてしまうが、「仕事は修行」という価値観は、激しい競争にさらされ、米中の政治戦争にも巻き込まれる中国のテック界のスターにとって、すとんと腹落ちするものなのかもしれない。