幅広い年齢層を対象にした「論語塾」をはじめ、企業研修や経営者の勉強会などで『論語』の講師を務める安岡定子さん。講義を通して、組織で働く人の本音や悩みに接する機会も多い。そうした経験をもとに、逆境、苦境に立たされたときこそ、よりどころとなるのが『論語』だという。どんなときに、どんな章句(言葉)が役に立つのか。安岡さんに聞いてみた。
画像提供=安岡定子事務所
月に一度、週末に開催している大人向けの論語塾。コロナ禍前は毎回、100人近くも参加していた(現在は2回に分けて開催)。

苦境や逆境に役立つ『論語』の言葉とは

子どもから大人まで幅広い年齢層を対象にした「論語塾」をはじめ、企業研修や経営者の勉強会など、平均すると月に20回以上、全国各地で、『論語』の話をしています。私が講師を務める「論語塾」では、受講者と一緒に章句を声を出して読みます(コロナ以降は会場の状況などに応じて、実施しています)。私が先に読み、その後について皆さんが読みます。素読という読み方です。これによって、音で章句が身体に入っていき、章句の持つ意味もいつしか体の奥に蓄積されていきます。このように継続して触れることで、『論語』への理解が深まっていくのです。

「論語塾」の講義をしているときに受ける質問や反応、またお寄せいただく手紙やメールなどは、私にとってはよい気づきになっています。そしてこれらを講義にも反映したいと、毎回心がけています。

さて、私が講師を務めるPRESIDENT経営者カレッジ リベラルアーツセミナーは「苦境を乗り越える 勇気を与えてくれる『論語』の言葉」がテーマです。これまでの講義経験をもとに、苦境や逆境にあるときに役立つ章句(言葉)を3つ選びました。

実は、コロナ禍のさなか、『論語』の章句を思い出し、それが心を整えるのに役立ちましたという趣旨のメールやお手紙をいくつもいただきました。くしくも、経営者やビジネスパーソンの方々が挙げていた章句が、今回のセミナーで取り上げているものと重なっていたのです。

歴史に学べば問題解決のヒントが見つかる

まず1つ目が、この章句です。「温故知新」の四字熟語としてご存じの方も多いでしょう。

ふるきをたずねて新しきを知れば、以って師と成るべし」。

昔の人の教えや過去のことについて学び、そこから新しい考え方や物事への取り組み方を見つけられれば、その人はよい先生になることができる、という意味です。

孔子は2500年も前に、まずは先人の言葉や歴史に学びなさい、そこから新しいことに取り組むヒントが得られると説いているのですが、それは現代でも同じではないでしょうか。

何人かの経営者の方がこんなふうに話されました。コロナ禍になって、見通しも持てず対応に苦慮することばかりだったけれど、少し気持ちが落ち着いたところで、「故きを温ねて新しきを知る」の章句を思い出し、過去にこういう危機をどう乗り越えてきたのかを振り返ってみました、と。

歴史を振り返ってみれば、コロナ禍と同じような規模の疫病が蔓延したことが何度かありました。14世紀のペストや天然痘、大正時代にはやったスペイン風邪などです。地震や洪水などの大きな災害にも何度も見舞われています。現在に比べたら、科学技術や医療のレベルはそれほど高くない時代に、人々はどうやって乗り越えたのか。この機会に過去にさかのぼって学ぼう、本や資料を探して調べてみた、というのです。