安岡定子さん
撮影=大沢尚芳

ひとりでは解決できない問題に対処するには

今回のテーマ「苦境を乗り越える 勇気を与えてくれる『論語』の言葉」で取り上げている章句が、もう1つあります。

苦境=壁にぶつかった時に、自分ひとりではその壁を突破できなかったら、どうしたらいいのか。そのときに役立つのが、孔子の弟子の一人・曽子そうしが語った次の章句です。

「君子は文を以て友を会し、友を以って仁をたすく」。

君子とは学ぶために仲間を集め、その友人のおかげで、仁の徳を磨くことができるのだ、という意味です。ちなみに、ここで言う「君子」とは、お手本にしたいよき人物、こういう人間でありたい、という理想の人物のことです。

自分ひとりでは解決できないときには、仲間に助けてもらう、知恵を出し合って壁を乗り越える方法を見い出していく。このように仲間と共にひとつのことに取り組むことが、実は人間的に成長し、仁の徳を磨くことにつながるのです。また、いざというときに力を貸してくれる人がどれだけいるのか。いざというときにお願いができる人間関係を築いているかどうか。それは日頃から仁の徳を磨いているかどうかにかかっているのです。

煩わしさを通して人間性が磨かれる

ここで次のような場面を考えてみましょう。たとえばある人がアドバイスや助けを求められたとしましょう。その人は、急ぎの仕事をいくつも抱えていたり、トラブルの対応に追われているかもしれません。その手を止めて、相談に乗り、手助けをしてあげるのは、かなり煩わしいことです。できれば関わりたくないのが本音でしょう。しかし、そのような状況でも、困っている人のために対応することは、相手のためであると同時に、実は自分自身の誠実さが磨かれているのです。人間的に成長できるわけです。

この章句は、顔を合わせて一緒に仕事をすることで、人間力が養われていくことを教えてくれます。組織で仕事をしている人たちにはとても大事な言葉だと私は考えています。

ところが、withコロナ、afterコロナの働き方では、テレワーク、オンライン会議などが主体となり、直接顔を合わせる機会が減っていくことでしょう。その結果、煩わしさを通して人間性が磨かれる場も少なくなっていくことが想像されます。たとえば、若手社員が組織の中で経験を積んでいくことや先輩の仕事ぶりを間近にみて学ぶ機会が失われていくのではないかと思います。人をどう育てていくのか。経営者の方にとっての新しい課題です。