太平洋戦における分水嶺として、日本においては失敗を繰り返さないための遺訓として語られてきたミッドウェー海戦。だが、同じ歴史的な出来事でも、勝者の側からは違った景色が見えていたはずだ。この史実を、アメリカではどう扱ってきたのか。歴史を題材に、「戦略的に思考する力」を手に入れるヒントとは──?

オモテ側から見るのと、ウラ側から見るのでは、とても違って理解されることがよくあります。1942年のミッドウェー海戦は、そのような歴史的出来事のひとつです。

2020年には、米国映画『ミッドウェイ』が公開されました(日本を含めたいくつかの国では、コロナで上映が延期されましたが)。非常に迫力ある映像とともに、アメリカ側がこの大海戦をどのように考えているかが表現されています。

アメリカ側にとって、真珠湾攻撃ののち最大の反撃であり、太平洋戦争に勝つ確信を得た瞬間でした。一方の日本軍側は優勢を失い、敗戦へと転落していく暗い入口となったのです。

日本軍の暗号は、解読されていたのか?

日本側で、ミッドウェー海戦を題材にした書籍は無数にあります。

そのいくつかは、「負けたことを起点」に物事を論じており、戦闘の勝敗をわけた本質とは違う議論になっていると感じます。

アメリカ側で有名な書籍は、ゴードン・プランゲの『ミッドウェーの奇跡』でしょうか。この書では、日本軍敗北の最大の要因は山本五十六長官であり、全軍を分散して配置し、不測の事態に対処できない布陣だったことを指摘しています。

日本側は、自軍の暗号が解読されているかもしれない、という疑念をこの敗北で持ちましたが、結論は出ないまま敗戦を迎えています。しかし実は、ミッドウェー海戦の直後(1942年6月7日)に米国の新聞シカゴ・トリビューン紙が「米海軍は作戦を予見していた」と報道しており、米国内の新聞が読めたなら、日本軍も暗号解読を知ることができた可能性がありました。

この情報漏えいに、米海軍の情報部は騒然となったことが、書籍『アーネスト・キング』に記載されています。日本軍が、米側の暗号解読をこのタイミングで知っていたら、歴史の一部は確実に変わっていたでしょう。