経営やビジネスにおいて、論理(サイエンス)と感性(アート)のバランスが重要であることは、いまや常識。現代アート好きでも知られる松本大さんと、ビジネスリーダーに絶大な人気を誇る山口周さんが、アートの趣味やリベラルアーツとの関わりを入り口に、感性や直感に基づいた意思決定を可能にするためのヒントを語ります。(第1回/全2回)

絵は描けないけど、見るのは大好き

【山口】本日は仕事におけるアートの部分といいますか、仕事と感性との関わりの話ということで。どこまでがアートかというのはあるのですが、ある種のリベラルアーツということでいえば、松本さんは1990年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券を退職なさった時に、ジャズ喫茶をやろうかなと考えたくらいジャズがお好きだと伺っています。いつ頃からなんですか、ジャズは?

【松本】音楽は遅いんです。アート的なほうは早くて、幼稚園の時に黒白フィルムを自分でダークバッグに手を突っ込んでフィルムの現像とかをやっていたので。

【山口】それ、普通に家に暗室があった?

【松本】暗室は、あった時期もあるけれども、ボロくて光が入ってしまうので、暗室がいらないダークバッグに手を突っ込んで、フィルムを外して、リールに入れて現像というのを。フィルムのほうですね。それを幼稚園の時に始めまして。

【山口】そういう家庭環境って、なかなか、ないと思うんですけど。

【松本】父親が好きだったんですね。それで、幼稚園の頃から写真を撮りはじめて、かなり深く。ですから、構図を考えるとか、映像は小さい時からずっと親しんできて。絵を描くとめちゃくちゃ下手で(笑)、絵は描けないんですけれども、写真を撮ったり、見たり、映画を見たりとか、アートを見たりとか、大好きで。一方で、音楽は、習い事を一切しなかったので。よく音楽って、習うではないですか、小さい時。それを一切しなくて、もともと若干音痴でもあり、楽器を習いもしなかったので、ほとんど聞いていなかったんです。ただ、家ではずっと父親がレコードを鳴らしっぱなしで。

【山口】それはどの系統の?

【松本】クラシックですね。ショパンとかモーツァルトとかあとはオペラばっかり、ずっと流れていたんです、LPで。私は普通に小学校の半ばか終わりくらいから、ラジオで、歌謡曲とかポップスを聞きはじめて。小学校6年か中1の時に、FMでスタッフを聞いたんです。スタッフが結成された時で、フュージョンですね。

【山口】はしりですよね。

【松本】当時はフュージョンではなく、クロスオーバーといっていて、スタッフが結成された時の最初の『スタッフ』というアルバムなんですけど。

【山口】何年くらいですか?

【松本】1976年か77年だと思うんですけど。FMで聞いてぶっ飛びまして、かっこいいと思って。

【山口】それはもうインパクトがあったわけですね。かっこいいとかなんだとか、人から勧められたとかじゃなくて、聞いた瞬間にこれだと思っちゃったんですね。