脳細胞も筋肉と同じで、基礎トレーニングをやらなければゲームには勝てないというのが前回までの話。現代アート好きでも知られる松本大さんと、ビジネスリーダーに絶大な人気を誇る山口周さんが、アートの趣味やリベラルアーツとの関わりを入り口に、感性や直感に基づいた意思決定を可能にするためのヒントを語ります。(第2回/全2回)
松本大さんと山口周さん
撮影=小川聡

縁石の上を歩いていて、どちら側に倒れるか

【山口】ビジネスも、自分が関わるビジネスのタイプによって、求めるものの考え方って変わるではないですか。たとえば金融の世界でいうと、MAのディールで儲けるというような、ビッグストロークのデカい案件、発行額2兆円ですというようなのを引き受けますというビジネスもあれば、債券のトレードのように、どちらかというと回転で儲けるというタイプのビジネスもある。ですから、お話をお伺いしていて、アートと呼ばれるもののなかで、これまで松本さんがお好きだったものと、とくに外銀(外資系の投資銀行)時代にやられていたお仕事というのには、ある種の通底するものがあるのかなという感じもしますね。そのあたりは、どうなんでしょうか。

【松本】どうなんでしょうね。一事が万事、私は人間が浅はかなので、あまり考えないんですよ(笑)。あまり考えないで走るタイプなので。だから、どうしても全部が後講釈になってしまうんですよね。これがやりたいと思っていったというのはあんまりなくて、なんか走っていたらそうなっていたみたいなことが多いので。

【山口】時間と精度って、トレードオフ(二律背反)があるではないですか。とくにマーケットに向き合っている方にとってみると、1分遅れたらビハインド(負け)になってしまうというところがあると思うんですね。私自身、コンサルティング会社にいたときに、人によっては、すごくデータを集めて、今決められない、今決められないというので、結局チャンスを逃すというのを何度か見てきている。これも、あまり過度な一般化はできないですが、いずれにせよデータというのは、全部そろわないと精度を100パーセントにすることはできない。そうすると、ある程度ヒューリスティックな部分に頼らざるを得なくて、では情報が30パーセントのときで決めるのか、70パーセントのときで決めるのかという話だと思うんです。松本さんも外銀にいらした時代、いろいろなジャッジメントとか、それこそマネックス証券を起業するときとか、起業をした後のいろいろな企業買収や海外進出の場面で、その瞬間、瞬間における大きな意思決定をするときに、論理でわかっていて判断なさった部分と、ある種の嗅覚で決めた部分があると思うんですけど、そこらへんはご自分のなかでどういう使い分けを?

【松本】これもよくわからなくて、ひとつのアナロジーで、私がよく思うのは、酔っぱらって縁石の上を歩いていますと。最近、道路の縁石って減っちゃったんですけど。ガードレールがちゃんとあったりして。でも、ガードレールがなくて、縁石のこっち側は車道、こっち側は歩道。で、縁石の左側、歩道の手前にちょっと生け垣というか、木が植わっている。低い、ブッシュが。夜、この縁石の上を自分は酔っぱらって歩いていると。そうすると、車道側に倒れると車がきますよね。一方、反対側に倒れると、ちょっと低いブッシュがあるので痛い。けど、死にはしない。で、酔っぱらって歩いているときにバランスを崩すと。どっちに転ぶか。みんなこっちに転ぶんです、歩道側に。でも、その瞬間に、ああ、こっちは車道だ、こっちは歩道だ、なんて考えているはずがないんです。酔っぱらっていても、歩道とブッシュの映像が入ってきていて、今までの経験から車道というのは轢かれる。木は、けがしても死なないとわかっている。それが全部入っていて、酔っていてバランスが崩れた瞬間に、瞬間に車道とは反対側に倒れるんです。

【山口】たまに車道側に倒れちゃう人もいますけど(笑)。

【松本】まあ、いるかもしれない。結局そんなもんであり、仕事をしているときに、いちいちそのときになんかいろいろ考えているともう間に合わないんです。じゃあ勘で決めるのかとか、論理で決めるのか。そういうことではなくて、両方入っているけれども、数をこなしていると、もう何度もここを歩いていると、大体入っているので、確率的にベターなほうに転ぶと。逆にいうと、そういうふうになるくらいまで数をこなしておかないと、この場でなんか考えちゃうんです。で、わからなくてこっちに倒れて轢かれちゃうとかってなっちゃうので。私はなんとなくそういうイメージがあるんです。