25歳で起業、32歳で東証マザーズ上場、34歳で東証一部上場……。若手世代を代表する経営者として注目されてきた出雲充さん。会社の規模が大きくなるにつれ、関わる人も多くなり、求められる決断の重さも増すばかり。そんなとき、支えになってくれるのが『論語』だという。
2018年バイオ燃料製造実証プラントの竣工式を開催。日本をバイオ燃料先進国にすることを目指して『GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)』を宣言した。写真中央がユーグレナ出雲充社長。
画像提供=株式会社ユーグレナ
2018年バイオ燃料製造実証プラントの竣工式を開催。日本をバイオ燃料先進国にすることを目指して『GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)』を宣言した。写真中央がユーグレナ出雲充社長。

なぜ経営判断に迷いがないのか

世界中を揺るがせている新型コロナウイルス感染症。この影響で経済状況が激変し、そうそうたる大企業でも売り上げや収益が激減するなど、先行きが見えない状況が続くなかで、ユーグレナ社はどう動いていけばいいのか。経営者である私に、判断が問われる局面が続いています。

この4月に緊急事態宣言が発出されると同時に、会社の仲間の安全を第一に考えて、東京の本社勤務者を100%リモートワーク体制に切り替えました。開催予定だった東京オリンピック期間へ向けて、以前からリモートワークを複数回実施していたので、移行はスムーズにいきました。

自分で言うのもなんですが、あれこれと迷うことなく、この決断ができたのは、リーダーとしての行動や考え方を、ふだんから『論語』に学んでいることが大きいと思います。

コロナショックが起こったときに、思いが及んだのが、『論語』にある「温故知新」でした。

「故きを温ねて新しきを知る」。まずは過去や歴史に学んでみよう。それで得たことをもとに、新しい考え方や取り組みを見つけることができればいい、ということです。そう孔子が教えているのだから、コロナショックへの対応は、歴史を振り返ることで答えやヒントは必ずでてくる、と考えたのです。

人類はこれまでにも感染症に襲われ、そのたびに危機に瀕してきました。古くは黒死病と恐れられたペスト、天然痘、そして20世紀初頭のスペイン風邪などを、どう乗り越えてきたのか。それを調べていくと、感染症へのアプローチの仕方がわかってきて、ユーグレナ社のとるべき方向性もみえてきました。その一つが、本社の全面リモートワーク体制への移行だったのです。

不測の事態に直面しても、過去の偉人の知恵に学ぶことで自信がみなぎってきます。それで会社に出ていけば、リーダーとして理性的な判断ができる、というわけです。

しかし、東日本大震災(2011年)のころは、リーダーとしての自信どころではありませんでした。並みいる企業の中で生き残っていくには、自分に一番足りないところを補って、人間的に成長しないといけない。そう思うようになった経緯からお話ししましょう。

ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用して世界の栄養失調問題やエネルギー問題を解決するために、2005年にユーグレナ社を起業しました。私が25歳のときです。起業して数年でリーマンショック(2008年)が起こり、その3年後に東日本大震災に見舞われたのです。

会社の上場を目指しているというのに、この先どうなるかまったくわからない。当時、世の中の信用も資金力もないベンチャー企業の経営者が不安そうにしていたのでは、会社の将来性は危うい、と周りから見られてしまいます。どうしたら迷わないで済むのか。しっかりしたものを自分の中に持ちたいと模索するなかで、出会ったのが『論語』でした。