見えないところに、想像力が生きる
【松本】まったく誰かに教わったわけじゃなくて、FMで聞いてすごいと思って。最初はクロスオーバー、フュージョン、それからジャズというのを聞きはじめるんですけれども、お金がないのでレコードが買えなくて。
【山口】当時高かったですからね。
【松本】2500円とか。なので、ラジオで聞くか、あとは学校の近くに都立の図書館があって、そこへ行くとレコードがブワーッと並んでいるんです。
【山口】ジャズ、そんなありました?
【松本】逆にいうと、そんなになかったのかもしれない。だから、片っ端から借りて、聞くことができた。そんなにいっぱいあるわけじゃないから。
【山口】もう全部聞いてやろうと。
【松本】それでジャズを聞きはじめて、写真はずっと続けていて。それが中2くらい。
【山口】自分で撮るのがお好きだったということなんですね。
【松本】まあ、撮るのと、見るのも。でも、それも系統立って教わったりはしていないので、けっきょく、神田の古本屋に行って。そうすると、アメリカの「ライフ」なんかが出した戦中戦後くらいの分厚い写真年鑑みたいなのがあるんです、古本で。そういうのを見たり、たまに買ってきたりして。そういうのを見たり、これいいな、みたいな。
【山口】それは、そういう本屋さんを回ったりというのは、もう中学高校の頃?
【松本】本屋は大好きで、おやじが出版社で編集者をしていたので、その影響もあって、神田の古本屋とかはよくいっていました。神田、御茶の水あたりは、高校も近かったので。写真の本を見に行くのでも、あるいは音楽でも、絵も少しは描いたので、御茶の水のレモン画翠で画材を買ったりとか。あとは詩が好きで、萩原朔太郎とか、全部読んでいます。
【山口】萩原朔太郎ですか。
【松本】萩原朔太郎は、高校までに全作品読んで。萩原朔太郎の評論とかを、神田の古本屋で探すんです。高3か大学1年か、そのくらいに。そうすると、詩の批評誌とかに、誰かが書いた朔太郎の評論とかがあって、それを読んで、こいつより俺のほうがわかってるな、みたいに勝手に思っちゃったりとか。どこまでがアートかわからないんですけど、詩とか写真とか音楽とかは、1回も習ったことないんです。だけど、本当にそういう独学というか、雑学というか、ただ単に好きで聞いてきたり、やってきたという。小さい時からそんなんで、詩はなんかこう、長いものを読む根性というか、忍耐がないので、短いのを読むほうが好きだったので。
【山口】確かに映画より写真、オーケストラの長いクラシックよりはジャズ。長編文学よりは詩という。
【松本】省略の美学という。
【山口】松本さん、じつは僕は自動車もけっこう好きで、しかも傾向がたぶん似ていると思うんですけど、いわゆる小排気量高回転のタイプが好きなんです。松本さんは、以前、確かロータスのエリーゼに。
【松本】乗っていますよ、今でも。690キロ。
【山口】私はいま、スプリジェットに乗っているので、車重が同じくらいですね。600キロくらいで。傾向としては、重厚長大で重々しくてヘビーなものよりかは、クイックで軽くて短くてというものが、なんとなく好きというのは近いですね。
【松本】写真も、カラーはやったことがないんです。黒白。省略されていて。評論家の蓮實重彦さんが、映画の評論で「省略の美学」という言葉を使われたことがあるんですけど、省略されているからこそ、逆に見えないところに想像力が生きるというのが好きなんですね。だから詩が好きなので、逆に詩に対して、決まった解釈を強制するようなのは間違っていると。省略されているから、いろいろな捉え方があって、それが詩のいいところでもあるなと思っちゃう。