「宇崎ちゃん」ポスターは何が問題だったのか
セクハラは通常「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2つに分類されます。前者はたとえば「昇進させてやるから」もしくは逆に「いうことを聞かないとクビだ」といった対価を用いてハラスメントをするケース。これに対し後者、「環境型セクハラ」はたとえば職場にビキニの水着のポスターを貼ることのように、職場で性的メッセージの強いものを人の目に触れるようなところに出す行為です。
後者は厳密には女性差別とは別のものです。性的メッセージを特定の空間でどの程度許容するのかという線引きに関わる問題だからです。不快に感じるのが多くの場合女性なので、重なって見えることになりますが、論理は異なります。女性が職場に男性のセミヌードのポスターを貼ったら、やはり環境型セクハラとなる可能性があります。
そうしたことを踏まえ太田啓子は、公共空間で性的なメッセージが強く出ている『宇崎ちゃんは遊びたい!』の献血ポスターについて、「公共空間で環境型セクハラしてるようなもの」と批判したわけです。親戚に高校生の女の子がいたので聞いたのですが、高校生などの間で献血はノベルティをもらうためのもので、それを目当てに連れ立って行くことがよくあるのだそうです。あの『宇崎ちゃんは遊びたい!』を使った献血の募集は、同人誌を販売する日本有数の大規模イベント、コミックマーケット(通称コミケ)では効果があったとのことで、その意味ではうまく機能したのでしょう。
老若男女がいる場に持ち込んだ失敗
そういった背景を考えると、批判を浴びたときに日本赤十字が出した「今回のキャンペーンも献血にご協力いただけるファンの方を対象として実施させていただきました。なお、今回のキャンペーンはノベルティの配布を目的としており、ポスターなどによる一般の方へのPRを目的にしたものではありません」というコメントは大変正直なもので、現場としてはその通りだったのだろうと思います。
ところがそれを新宿の駅でやってしまった。この献血センターは新宿の地下街にあり、私も何度も通ったことがある場所です。そこにいきなりあの胸が強調された「宇崎ちゃん」が出てきたら、「環境型セクハラだ」という意見が出るのは少なくとも理解はできます。若いオタク系の人がたくさん集まるコミケなら効果的な広告なのでしょうが、老若男女が通る新宿の地下街に持ってきてしまうのは、さすがにゾーニングとして失敗です。日本社会がゾーニングに甘いことも一因だろうと思われます。