「辞めた人は、また戻ってくればいい」

アルテの新入社員は、他業種のそれのような“白紙状態”ではなく、美容師の専門学校で2年間学んできた者ばかり。やる気があるのは当然だ、とうらやむ向きもあろう。しかし、皆が皆それを維持できるわけでは決してない。

「キャリアの“あみだくじ”に線を一本引いてやる」
美容業界という特性もあってか、50過ぎには見えない。「横浜の真ん中で3代住んでいます」(吉原社長)。

吉原氏の誕生日である1月5日には、全社員約1200名から手紙が届く。色紙、アルバムなど各々が独自の表現力を競う文面に、吉原氏は1週間かけて目を通す。ただ、毎年その中の20通程度には批判が記してあるという。「社長は知らないだろうけど、実はこうなんです」「私たちはこれだけつらい思いをしてるんです」「私は辞めますが、最後にこれだけは言いたい」等々。

辞意を漏らす社員への対応は柔軟だ。

「本当はタレントとかミュージシャンになりたい、という者が毎年1人か2人はいる。そういう人を引きとめはしませんが、『両親に専門学校の学費を払わせといて、それでも辞めるの?』と言います。今の親は甘いから“好きなことをしろ”と言うが、決心したのだからとりあえず続けさせろと言いたい。『(仕事の厳しい大手ではなく)普通の小さい美容室でいい』という者は引きとめますが、残るかどうかは五分五分です」

もともと教員志望だった吉原氏は、大学卒業後、26歳までメーカーに勤務した。美容師として独り立ちしたのは30歳のとき。そんな経歴から、複数の世界を知り、様々な視点を持つというメリットは決して小さくない、と言う。

「辞めた人は、また戻ってきてくれればいい。ウチの長所は、中にずっといると見えないものです。1つの世界しか知らないのはよくない。どんどん外に出ていってほしい。極論すれば、10年ウチでやったら1度外で2、3カ月勤めてみればいい。いろいろいい経験になりますよ」

実際、「ここは自分に向いてない」と一度辞めた“出戻り社員”もいる。こうした柔軟性も育成の緩衝材となっている。

「我々の業界は、社員の自己実現を手伝っていけば儲かる。まずその哲学を社内に植えつけなければならない。時間がかかりますよ。若手育成のシステムを構築するのはその後です」