「マウスの実験では、交感神経が興奮して活動が高まると、リンパ球がリンパ節から出ていくのが抑えられてリンパ節にたまり、強い獲得免疫を引き起こす準備が整えられました。夜行性であるマウスの場合、夜に交感神経の活動が高まって、こうした現象が起こります。マウスにとって夜は餌を取りに行く時間帯で、天敵に遭遇したりして、傷を負って病原体が体内に侵入する可能性が高くなるため、それに備えたメカニズムと考えられます」(鈴木教授)

勧められない就寝間際のスマホ

翻って人間の場合、交感神経の活動が高まるのは朝起きてから午前中で、それ以降は低下する。こうした生理的なリズムを「サーカディアンリズム(概日リズム)」という。「交感神経が沈静化して活動が低下すると、リンパ節のなかのリンパ球は、鼻や喉などの末梢組織に送り出され、そこにいる細菌やウイルスに対して獲得免疫の作用を及ぼします」と鈴木教授は話す。

そういえばデキるビジネスパーソンほど、午前中に重要でストレスフルな仕事に集中し、午後は軽い仕事を流している。見事に交換神経のサーカディアンリズムと一致している。外出すれば、細菌やウイルスとの接触機会が増えるため、重要な商談に出向くのは、リンパ節にリンパ球が集中している午前中にこなしたほうがいいとの判断も働く。鈴木教授も「免疫機能の理に適った働き方といえそうです」という。

就寝間際にスマートフォンを操作する人がいるが、「交感神経の活動を不必要に高める可能性があります。また、サーカディアンリズムを崩しかねないのでお勧めできません」と鈴木教授は指摘する。要注意である。

鈴木一博(すずき・かずひろ)
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 教授
1998年、東京大学理学部、2003年大阪大学医学部医学科(学士編入)卒業。07年大阪大学大学院医学系研究科修了。日本学術振興会特別研究員、カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員などを経て、17年4月より現職。
(撮影=石橋素幸 図版作成=大橋昭一 写真=amanaimages、Getty Images、PIXTA)
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