自粛警察は夜の歌舞伎町には皆無

まだあどけなさの残る顔で少し笑ってくれた。若い彼にしてみたら、よくわからないコロナより勤め先のほうが怖いだろうし、ヤクザはもっと怖い。日々のノルマに上下関係、ヘタを打てば何をされるかわからない。それでも金が必要だ。さっきのコンビニバイトの学生さんと彼の年齢は同じくらいだろうが、この街にいる理由は同じ、とにかく金が必要なのだ。18歳で家を出て、2万円のアパート暮らしでスポーツ新聞社のアルバイト、あやしい金融新聞の記者、風俗新聞の広告営業を転々とした私にもよくわかる。夢とか以前にまず金が必要なのだ。とりあえずできることを見つけて食っていく。夢はあるが、夢を追う以前の現実と対峙する。歌舞伎町にいる若者は、メディアの伝える表層よりシビアに金を追っている。地に足をつけているどころか這いつくばって金を拾ってる。

キャッチ追放と自粛を訴えるも相手にされず(筆者撮影)

終電が近くなり歌舞伎町はさらに人が減った。セントラルロードでいかにも弱そうなおじさんたちが「キャッチ行為はやめなさい」「コロナうんぬん」と録音した拡声器を持って佇んでいたが、それも深夜には撤収してしまった。東口には帰りを急ぐ人々。終電を過ぎれば花道通りを境にガラリと変貌する。見えない秩序が働いている。かつての私と同様、気にしない社会人や学生さんも好きなようにハメを外している。コロナなんか誰も気にしていない。暴力は正義で、金は何より勝る。人間の本性むき出しのこの街に、自粛など無力。それを証拠に、パチンコ業界ですら晒し者にしてみせた東京都も、店名ひとつ出せやしない。それこそネットで吠えてみても街になんか届かない。ボコられる覚悟で乗り込めばいいはずの自粛警察すら皆無。それが私の30年来恐れ、愛してやまない歌舞伎町である。

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