経済産業省には「委託」の選択肢しか無かった

そもそも何故、持続化給付金事務事業は委託事業だったのか。国の事業には大きく分けて、①直轄事業、②独立行政法人が実施、③地方自治体が実施、④補助金事業、⑤委託事業の5つのやり方がある。しかし、経済産業省は⑤委託事業という選択しかできなかった事情があると筆者はみている。

第1は、国が直轄で事業を扱うケースである。持続化給付金事務事業の場合、中小企業庁が自ら行うか、地方局である各経済産業局が行うやり方である。しかし、日本全国の売上減少の中小企業が対象になり得る。5月1日と2日に申請された件数だけでも約28万7000件もあり、人員上の制約からとても捌ききれない。

第2は、独立行政法人が実施するケースである。具体的には、中小企業基盤整備機構が行うやり方である。しかし、中小企業基盤整備機構自身が、中小企業経営力強化支援ファンドの立ち上げなど、新型コロナウイルス対策の事業を別途扱う事情から、難しかったとみられる。

第3は、地方自治体が国の事業を実施するケースである。国が本来、果たすべき役割の事業を地方自治体が担うものである。例えば、中小企業が国の保証付き融資を受けられるセーフティネット保証の認定事務は、市区町村の商工担当課が実施している。

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委託事業は官僚の裁量の余地が大きい

今回の場合、市区町村ではセーフティネット保証の認定急増が予想されたことに加え、定額給付金の支給作業が新たに加わったため、持続化給付金事務事業を依頼することは不可能だったとみられる。

第4は、補助金事業である。これは、国自身が窓口になるケースと、地方自治体も折半するケースとがあるが、そもそも、支給対象者である中小企業に補助すべき事業が存在しないので、制度としてそぐわない。

上記の4つのやり方は、いずれも持続化給付金事務事業の委託には不適切、あるいはなじまないものだったことがお分かりいただけただろう。そして、経済産業省に残された選択は、第5、委託事業ということになる。

委託事業の場合、委託先と契約を結べば良いだけである。入札方式と随意契約方式とがあるが、随意契約方式は、特定の先と契約できることから批判の的になりやすいため、入札方式を選んだと思われる。

しかし、入札方式でも批判を浴びているのは、これまでの報道の通りである。委託金額769億円という金額の大きさと、その後の電通への再委託が749億円と、受託先が事業を一部しか行っていないためである。再委託に関する制約はなく、経済産業省側に大きな裁量があったことがこの問題の背景にあると言える。