そこで、アナリストたちは近年の原材料価格の高騰が統合の引き金ではないかと推測した。菓子の原材料である小麦やトウモロコシは、イコール乳牛の飼料である。新興国による需要の急増とバイオエタノールへの転用によって、06年以降穀物相場が急騰したのは周知の通り。実際、この高騰によって07年度だけでも、明菓、明乳合わせて約100億円も原料調達コストが上昇している。
だが「原材料の高騰が統合の理由ではない」と、佐藤も浅野も口を揃えて断言する。さらに、「統合以降、人員のリストラを進めるつもりもない」と言い切る。
では、何のための統合なのか? その真意を探るには、菓子、乳業を取り巻くマーケットを概観してみる必要がある。
「菓子の市場は、昔は子供中心のマーケットでしたが、今は大人も菓子を食べます。マーケットが上の世代まで広がった半面、寸胴型になった。つまり、薄く長く伸びたわけです。その結果、一極集中型のマーケティングや商品開発ができなくなってしまったのが現状です」
こう語るのは、明菓・菓子商品企画部長の岡屋英二だ。岡屋によれば、かつては子供という“塊”に向けて商品を開発していればよかった。子供の世界で流行すれば、単品で100億円を売り上げるようなメガヒットが生まれた。しかし、マーケットが寸胴型になった結果、メガヒットが生まれなくなって久しい。最後の塊は、いわゆる団塊ジュニア。明菓、最後のメガヒット「フラン」が世に出たのは10年前。大ヒット商品「ガルボ」の発売は13年前。いずれも団塊ジュニアが20代の若者だった頃、すなわち菓子を最もたくさん自主的に買う年齢だった時代に登場した商品である。
日本の一般流通菓子市場は、ここ数年3兆円規模で横這いの推移を示している。内食回帰の傾向も手伝って、不況による影響もさほど被ってはいない。しかし、市場の性格は大きく変わったのだ。
さらに、コンビニの隆盛によって、新商品の寿命が極めて短くなってしまった。菓子事業本部長の小村定昭が言う。
「昔のスーパーの棚は広かったので、持っていけば並べてもらえたし、アイテム数も少なかったから並べておけばある程度売れました。そうした環境からロングセラー商品が生まれたのです。しかし、コンビニの棚は三尺が主流。だから、棚の奪い合いになるんですよ」
コンビニはPOSによって、商品の売れ行きをリアルタイムに把握している。店舗が小さいから売れない商品を並べておく余裕はなく、最も厳しいコンビニの場合、100円の商品が1週間で1個売れなければ改廃(入れ替え)を行う。現在の流通業界は、ロングセラー商品をじっくりと育てる環境にはないのだ。(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時