パラリンピックは社会を変える当事者を生んだ大会だった

——元選手のなかには、障害を負ったあと「いつも死ぬことばかりを考えていた」「施設のなかでずっと生きていくものだと思っていた」と振り返る人もいましたが、パラリンピック後の人生は違うように感じました。パラリンピックが彼らの人生を変えたのですか?

きっと彼らにとって、パラリンピックは人生の一つのスタート地点になったと思うんです。障害者でありながらスポーツをする。日本を代表して大会に出場する……。彼らは、パラリンピックでたくさんの衝撃を受けました。

稲泉連『アナザー1964 パラリンピック序章』(小学館)

ただし、彼らの人生という長い尺度で見れば、パラリンピック後にも、乗り越えなければならないいくつもの課題に直面した。働く。結婚する。障害者スポーツの普及を行う。なかには障害者の労働条件を改善する社会運動にかかわっていった人もいました。

それぞれが、さまざまな場所で、新たな課題を乗り越えながら、日本社会を生きる障害者の先駆者となっていったのです。

インタビューを重ねるうち、ぼくは彼らに自然と敬意を払うようになっていました。一人ひとりが、モデルケースのない人生を歩み、「障害者の自立」という問題に向き合っていった人たちであったからです。その意味で日本初のパラリンピックは、社会を変える当事者を生んだ大会でもあったのです。(続く)

(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川 徹)
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