想定問答集なし! 大阪の記者会見で鍛えられたメッセージ発信力
では、なぜ吉村さんが、プロンプターを使わずに、このような説明や会見ができるのか。
それは端的に一言、大阪における記者会見でとことん鍛えられているからだ。これは吉村さんだけでなく、松井一郎大阪市長も同じだ。
大阪においては、知事・市長は、毎週1回の記者会見に加えて、毎日の登庁時・退庁時にも、記者からの質問に応じる。その他、重要会議や重要イベントが終了したのちも、記者からの質問に応じる。そしてこれら会見や質疑応答は、基本的には質問がなくなるまで原則時間無制限に行われる。もちろん確実に時間枠が確保されている毎週1回の定例記者会見以外は、次のスケジュールの関係上途中で打ち切られる場合もあるが、それでも可能な限り質問が尽きるまで知事・市長は応答する。
僕が知事に就任した時、その後市長に就任した時、記者会見や質疑応答などについては、政策企画部の広報担当によって、完璧な想定問答集が作成される体制になっていた。前任の知事・市長まではそうしていたのだろう。
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そもそもなぜ想定問答集がそれほど完璧に作られているのか。それは「知事・市長が答えられなかったら恥だ」と考えられているからだ。
であれば、知事・市長がきちんと答えることができるなら、完璧な想定問答集など事前に用意する必要はなくなる。
さらに、役所は、「知事・市長が間違ったことを言ったら大変だ」とも考えている。しかし「知事・市長といえども所詮人間、間違うことだってある。間違えたら後に修正すればいい」と考えたら、そこまで完璧な準備をする必要はなくなる。
政治家ぶった、もったいつけた話をしなくてもいい。格調高い話をしなくてもいい。
必要なことを、重要ポイントに絞って、自分の言葉で語る。
太いロジック、根本の考え方が重要なのであって、細かな事実の説明は、職員に任せればいい。間違えば後日訂正すればいい。
このような考えに改めると、膨大な労力をかけた事前の想定問答集作りが必要なくなってくる。
その代わり、知事・市長は、必要で重要な、太いロジックをしっかりと頭に叩き込まなければならない。
ただしそれをしっかりと頭に入れておけば、記者からどんな質問が来ても、必要なことはすべて自分の言葉で迫力をもって答えることができるようになる。
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そこで鍛えられている吉村さんだからこそ、会見や質疑応答、そしてテレビ出演において、どんな質問が来ようが、必要かつ重要なポイントについて自分の言葉で迫力のある、聞いている者の「ハート」に突き刺さるメッセージを出し続けることができるのだ。
もし安倍さんや、小泉さん、その他閣僚の会見や質疑応答が、吉村さんのものと比べて物足りなく感じるのであれば、それは彼らの会見、質疑応答の場が、戦場として熾烈さが物足りないからだろう。
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.198(5月7日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【政界・新リーダー論(1)】なぜ吉村洋文大阪府知事のメッセージはハートに突き刺さるのか?》特集です。