彼の話をもう少し正確に言うと、ナンバーが3になるのは車幅が1.7メートルを超えた場合、そして、排気量が2000ccを超えた場合である。いずれかひとつでも規定を上回ると3ナンバーになる。
ただし、ナンバーが3でも5でも自動車税はまったく変わらない。自動車税は排気量によって課税される。仮に、1800ccのエンジンを搭載する5ナンバー車と1400ccのエンジンを搭載する3ナンバー車があったとする。
すると、3ナンバー車の方が自動車税は安くなる。
だが、ユーザーは「3ナンバーの方が5ナンバーよりも税金が高い」と思い込んでいるのである。そこで、自動車会社は長い間、5ナンバーの車を主に開発してきた。
車幅を広げれば日本では売りにくくなるが、一方、アメリカでは座席間に余裕がある車が好まれる。それは一般的にアメリカ人の方が日本人よりも体格がいいから、車幅が広い方がウケるのである。
「レガシィアウトバック」がアメリカで大ヒット
開発陣はレガシィアウトバックの車幅を3センチ大きくして、1.73メートルにした。ちなみに現在では1.84メートルまで大きくなっている。
ただ1.8メートルを少しでも超えると、日本ではとたんに売れなくなるという。立体駐車場に入らないし、普通のマンションの駐車場でも、はみ出してしまう。
それに狭い路地にも入っていけない。だから、高級車のクラウンでさえ、車幅はちょうど1.8メートルだ。それ以上の車幅を持つのは日本車ではレクサス以上のグレードだ。
こうして、レガシィアウトバックは車幅を大きくしたため、日本国内では人気は出なかったがアメリカでは大いに受け入れられることとなった。
乗用車をベースにした四輪駆動のSUVで、しかも幅がアメリカ車並みになったレガシィアウトバック……。
アメリカ市場ではベストセラーカーになり、リセールバリューも高くなった。他社の車とスターティングプライスは同じでも、リセールバリューが高くなれば、ユーザーは安く買ったことになる。
そして、リセールバリューが高いことが広まればレガシィアウトバックはますます売れるという好循環が生まれる。
技術はあってもイノベーションがなかった
軽自動車からの撤退とアメリカマーケット向けの製品企画に特化することで、富士重工は長年の停滞から脱して、快進撃が始まる。
ふたつの決断は富士重工という会社が息を吹き返すためにはなくてはならないイノベーションだった。
スバル360やスバル1000、水平対向エンジン、四輪駆動、そして、アイサイトに至るまで、同社の技術開発、革新にはめざましいものがあった。専門家、自動車評論家はそうした技術革新を手放しでほめる。しかしながら、技術革新とイノベーションは違うものだ。