こうした高いハードルの設定により、吉野家の退店率は極めて低く抑えられている。吉野家は、徹底的に本業で稼ぐ企業なのであり、しかも相当に渋いのだ。
必要性のない不動産を取得せず、営業利益率を徹底的に追求し、しかも新規投資に極めて慎重となれば、当然、手元にはキャッシュが残る。吉野家の流動資産比率は同業他社と比較しても極めて高く、長短の借入金も少ない。つまり、現ナマをたくさん持っているわけだ。
有名な話がある。米国産牛肉輸入禁止を受けて牛丼の発売を停止したとき、安部社長は社員に向けてこう宣言した。
「2~3年は商売しなくても、社員の給料は払えます」
当時の吉野家は、約300億円のキャッシュを持っていた。
「手元流動性が高い形で資産を持っていると、いざというとき時間が稼げる。牛丼発売停止の後、デッドストックを出しつつも新メニューを軌道に乗せることを優先できたのは、キャッシュを潤沢に持っていたからです。つまり、それをやらなきゃ死んじゃうというとき、赤字を出してでも生命の維持・継続に集中できる。死んで花実が咲くものかってやつかな」
【吉野家 DATA FILE(4)】
固定資産を持たない経営でリスクを回避
店舗拡大にあたり、土地、店舗、厨房機器に至るまですべてリースでまかなった。それゆえ、バブル後の不動産値下がりによる損益をこうむらずに済んだ。現在は固定資産も持つが、キャッシュフロー重視の経営であることには変わりない。