道徳の「能力」はどうやって評価するのか
道徳の授業の学習目標を「知識」と「能力」の切り口でリストアップし、その獲得を評価する。意図は明快だが、実際、それは可能なのだろうか?
「獲得したかどうかをイエス・ノーの二択で判断するのではなく、段階として評価するのであれば、可能です」
そう答えたのは、フランス国家教育省の学校教育責任者、エドゥアール・ジェフレイ氏。国家教育省大臣に次ぐナンバーツーのポジションに、42歳の若さで就任した俊英官僚だ。教科の詳細や重要性を、資料を見ることもなく、スラスラと応答する。
「知識の評価は単純です。共和国理念や国の仕組みなど『知っているかどうか』を、テストで確認できます。能力の評価はより注意が必要で、学校には『寄り添い、励ます』という姿勢が求められます」
目的は「能力を獲得させること」で、出来・不出来を断ずることではないからだ。それを成績表に評価として記すのは、各児童の成長の目安を家庭と共有するため。フランスは小学校から留年する制度があるが、道徳・公民の評価は、進級の判断材料としては用いないという。
読み・書き・計算と同じくらい大切な教育
この授業で獲得すべき能力を説明する際、ジェフレイ氏は「社会性の能力」と言い換えた。指導方針にリスト化された項目はすべて、「感情をコントロールし、共同体で生きる」ために必須のものだから、と。
なぜそれを、学校で教えるのか。筆者が向けた問いには、「それが、フランスの国家と国民の契約だから」と即答した。
「フランスは、対等な主権者である市民一人一人が集う共和国です。自由・平等・友愛の理念を実践するためにはまず、自分と異なる他者を、対等に尊重できなければなりません。私たちの社会はその尊重なしには成立しない。それができるよう子どもたちを教育するのは、国の役目なんです」
フランス共和国という国をともに作っていく市民を育てる。それが公教育の最終目標なのだ。
「教科として、道徳の学習時間は多くありません。小学校授業の週24時間のうち、フランス語は週8時間、算数は週5時間、道徳は1時間です。しかし学校教育における重要度としては、読み・書き・計算・他者の尊重の四つが、同等で並んでいると言えます」