戦時中の「欲しがりません勝つまでは」を彷彿とさせる根性ワード
また、解決法については、「盤石な医療体制を構築していきます」「未来を先取りする変革を一気に進めます」「努めてまいります」「増強されます」「整えます」とどれもぼんやりした未来形だった。「ということは、今まで何もやってこなかったのか」という絶望感にとらわれた人もいたはずだ。
会見は「キーメッセージ」が見えないまま進んだが、その途中で「自分はその最前線に立っている」とでもいうような勇者めいた発言があった。
「今回のウイルスについてはいまだ未知の部分がたくさんあります。よく見えない、よくわからない敵との戦いは容易ではありません。政府の力だけでこの戦いに勝利を収めることはできません」
これでは不安を煽るだけだ。続けて、「一人ひとりの国民の皆さんのご理解、ご協力が欠かせません」と呼びかけた。一体なにを理解して、なにに協力すればいいのかわからない。戦時中の「欲しがりません勝つまでは」を彷彿とさせる根性ワードが散りばめられ、聞き手にはモヤモヤ感だけが残る。
首相は「さまざまな課題・不安・意見」と繰り返したが、これは「いろいろありすぎて、整理できていない」と言っているのと同じだ。
われわれは日本のリーダーである首相に寄り添ってほしかったし、不安をしずめてもらいたかった。しかし、国民の不安を分かち合おう、軽くしようという気概は微塵も感じられなかった。
NZ首相は何度も何度も「prepared(準備完了)」と繰り返した
ここで、ほかの国のリーダーの例を見てみよう。
例えば、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相。2月29日に、最初の感染者が出たことを受け、会見でこう話した。
「私が訴えたいのは、ニュージーランドはこうしたシチュエーションに適切に対応できるということです。公衆衛生に携わる官僚や専門家(の知見)は世界でもトップクラスであり、医療施設も十分に準備できています」
アーダーン首相は相談センターの電話番号を書いたパネルの前で会見し、何度も何度も「prepared(準備はできている)」と繰り返した。