イランで選択的人工妊娠中絶が認められ、美容整形手術が盛んなのか

伝統社会の考え方から大きく飛躍したイランの特異な倫理観は、こうした子ども観だけでなく、中絶や整形手術に対する見方にも認められる。

日本では、出生前診断による病気や障害のある胎児の「選択的人工妊娠中絶」は違法である。しかし、実際は、例えば先天性風疹症候群に罹患りかんしている胎児に対しては「身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する」という母体保護法が認めるケースに該当すると司法が認めていることにより「選択的人工妊娠中絶」が行われている。

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ところがイランでは、1979年の革命以降、母親の生命を救う場合以外の人工妊娠中絶をイスラム法の見地から違法であるとし刑罰の対象としていたが、1997年に最高指導者ハメネイ師が「その子を育てることが困難であるなら」許されるとのファトワ(教令)を発行したことにより、出生前診断によって遺伝性血液疾患や血友病との診断を受けた胎児の出生を「予防」するための人工妊娠中絶が実施されることになった。

さらに、2005年には、イスラム法の原則の一つとされる「苦痛と困難からの防護」という概念が母親に対して適用され、「治療的人工妊娠中絶法」が成立した。

高い鼻を削る整形手術は「劣等感を取り去る、心の病の治療」

つまり、日本では違法状態のまま、司法の「こじつけ」で黙認されていることが、イランでは、イスラム法学者の解釈によって「晴れて」合法になっているのである。

イランは、また、整形手術のさかんな国として知られる(日本とは逆に、高い鼻を削り、豊満な胸を小さくするケースが多い)。これは、イスラム法学者の見解で、自殺と同様、整形手術は自らの体を傷つける行為に当たるから原則禁止だが、例外的に「劣等感を取り去る、心の病の治療」なら認められるとされたのが大きい。

つまり、宗教的な権威に裏づけられた社会秩序は必ずしも保守的な体制に帰着するとばかりは言えず、イランのように、むしろかえって「家族計画」「出生前診断」「整形手術」といった伝統社会では想定もできなかった新時代の社会的な要請に柔軟に対応することもありうるのである。