世界最大級のIT見本市は中止に

新型肺炎は、人の移動を制限し航空業界をはじめ、世界各国の企業の業績にかなりの打撃を与える恐れがある。感染を防ぐために、飛行機に乗るのをためらう人も増えつつある。そうした心理の増大から航空便が減少すると、航空機の需要は低下するだろう。それは、航空機に使われるさまざまな素材やジェットエンジンの生産を減少させるなど、広範な産業に影響を与える。

また、人の移動が制限されると、企業が商談を進め新規の契約を獲得することなども難しくなる。それは、スペインのバルセロナで開催予定だった世界最大級のIT見本市、“モバイル・ワールド・コングレス(MWC)”の中止が決定されたことから確認できる。

世界の企業にとって、新型肺炎は従業員の生命を危険にさらす脅威だ。それを回避するために、ソニー、アマゾン、エリクソン、フェイスブックなどがMWCへの出展を取りやめた。同時に、この決定は企業にとって痛手でもある。エリクソンなどにとって、MWCは自社の5G通信機器の安全性などを訴え、シェア獲得につなげるための重要な機会だったはずだ。

世界全体がウイルスとの戦いに臨む中、大規模な見本市などの開催は感染のリスクを高める要因になり得る。感染対策の為にイベントなどの開催を自粛するムードが高まり、人々の消費意欲の低下など、経済にはマイナス影響が出やすい。

航空貨物は景気の先行指標

旅客に加え、新型肺炎が空輸されるモノの数に影響を与えることも見逃せない。航空貨物は運賃が高い分、輸送スピードが速い。それは、世界の企業が効率的に資材を調達するために欠かせない輸送手段だ。そうした側面を反映して、航空貨物の取扱量の動向は景気の先行きを反映する先行指標として扱われている。

近年、中国経済の景気減速や、米中の通商摩擦によるサプライチェーンの混乱から、世界の航空貨物需要は伸び悩んできた。新型肺炎の発生はそれに追い打ちをかけている。国際航空運送協会(IATA)は、今回の新型コロナウイルスの発生によって世界の航空貨物業界が一段と厳しい状況を迎えるとの見方を示している。

すでに、中国では武漢が封鎖されるなど、世界のIT機器や自動車などの生産に大きな支障が生じている。わが国でも部品調達が滞り、一部企業の完成車生産が一時停止された。その他の産業でも、中国での生産活動の停滞などを受け、資材調達に影響が生じている。

経済の専門家の中には、世界的な物流の混乱から航空貨物業界にはかなりの衝撃が予想されると警戒を強める者もいる。このように考えると、新型肺炎が各国の航空ビジネスだけでなく、世界経済全体の安定感に与える影響は軽視できない。