現に、月50時間台の残業で労災認定されたケースもある。また、中小企業への上限規制適用は2020年4月からであるが、それ以外に、上限規制の適用が5年間猶予される業務がある(図表4)。

このうち、建設事業と自動車運転の業務は、いずれも脳・心臓疾患の労災認定件数の上位を占めている「過労死・過労うつの発生件数が多い」業種である(図表5)。

(出典)厚生労働省「平成30年版過労死等防止対策白書」

見てのとおり、道路貨物運送業(中分類)は圧倒的に1位であり、道路旅客運送業(中分類)も5位に入っている。

また、建設業も、大分類で「建設業」に分類されるものが、6位、8位、14位に入っており、上位に位置する。このような状況であるにもかかわらず、これらの業種に対する上限規制は5年も猶予されてしまうのだ。

人命、安全よりも長時間労働が優先された

これはだれにとっても他人ごとではない。これらの業種に従事する労働者たちの命が危険にさらされることはもちろん、疲労困憊したドライバーが運転する事故に巻き込まれたり、疲労のため施工ミスをした建物が倒壊するといったケースがあることを想像してほしい。人の命よりも、安全よりも、長時間働かせることが優先されてしまっている。

さらに、医師についても、以前から長時間労働が問題視されているにもかかわらず、上限規制が5年間猶予されてしまっている。人々の命を助ける医師自身の命が危険にさらされているという状況である。

そして、新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が、猶予ではなく、単に除外されている。なお、この業務につき、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対しては、医師の面接指導が罰則付きで義務付けられた。

事業者は、面接指導を行った医師の意見を勘案し、必要があるときには就業場所の変更や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置を講じなければならないとされている。しかし、このような措置が歯止めになるとは到底思えない。以上のとおり、上限が定められ、以前よりはマシになったと言えるかもしれないが、多くの抜け道が用意されており、極めて不十分である。

企業側に甘すぎる罰則

三六協定を締結しないで残業させた場合や、締結しても前述の上限を超えて残業させた場合の罰則はどうなっているのかというと、懲役6カ月又は罰金30万円である(労基法119条)。懲役刑が科されることはまず無いので、事実上は罰金のみ。なお、この罰則は残業代不払いについても同じである。

行き過ぎた長時間労働は人の命にかかわることであるにもかかわらず、それを規制する法律に違反した場合の罰則がたったの30万円なのである。こんな軽い罰則だと、三六協定の締結すらしない企業が大量発生し、残業代不払いも無くならないのは当然であろう。