一昔前は脳内出血(いわゆる脳溢血)で突然死する例もありましたが、近年は降圧薬や脂質異常症治療薬が普及し血管の劣化が遅くなったせいか、出血性の脳血管疾患はだいぶ減りました。その代わりに一過性の脳梗塞(TIA)や動脈硬化性脳梗塞、心臓にできた血栓(血の塊)が脳血管に飛び、動脈を詰まらせることで生じる心原性脳梗塞など「血流が滞る」脳血管疾患が増えています。現在、日本人の要介護認定の第1位は認知症ですが、第2位はこの脳血管疾患なのです。

合併症で寝たきりの知人も

朝方にろれつが回らない、半身が痺れるなどの症状があり、昼過ぎに消失する状態が続いたら、脳梗塞のリスクが高まっている証拠。すぐに脳神経内科や脳神経外科を受診しましょう。

高齢化にともない、脳の表面の動脈に生じる脳動脈瘤の破裂で生じるくも膜下出血が増えているといわれています。ただしこの脳動脈瘤については手術に踏み切る、踏み切らない、の判断が難しい面があります。

脳動脈瘤は、脳の表面を走る動脈が枝分かれする箇所にできる血管のコブのことです。成人20人のうち1人に見つかるありふれた疾患で、病院のドル箱になっている脳ドックで指摘されるケースが増えました。

健診センターの医師に「くも膜下出血を防ぐために、予防的クリッピング(コブの根元をクリップで留める手術)を行いましょう」と勧められる人も少なくありません。なにせ、医療は不安産業ですからね。

しかし脳動脈瘤が破裂する確率は、コブの大きさや場所にもよりますが、年間1%未満です。また、万が一くも膜下出血を起こした場合の死亡率は3~4割といわれています。裏を返せば麻痺などの後遺症は残るものの、全体の6~7割が生存するということ。しかもそのうちの半数以上、つまり全体の3分の1は無事に社会復帰を果たしています。

一方、頭蓋骨を切り開いて行うクリッピング術で合併症が生じる確率は、報告にばらつきはあるものの1.9~12%と高率です。

私の知人にもクリッピング術後の合併症で40代で植物状態になり、今も寝たきりという男性がいます。そこまで重度ではなくても、認知機能の低下や生活動作に支障が出るケースは決して珍しくはありません。

喫煙歴や重度の高血圧、家族歴、コブの大きさが7ミリ以上など破裂の条件が揃わない限り、無駄に大きなリスクを取る必要はないと思います。

脳ドックなどで脳動脈瘤の存在がわかった場合は、慌てて手術に踏み切るのではなく、むしろ、くも膜下出血を起こしたときを想定して準備をしておきましょう。

セカンドオピニオンを受けるとでも説明して、脳神経外科あての紹介状(診療情報提供書)と画像検査データを一式、用意してもらってください。できれば自宅用と携帯用の2セットをつくり、家族に説明しておくといいと思います。

幸い脳神経外科の専門医は7933名(19年9月現在)と多く、くも膜下出血や脳梗塞を起こしたときの緊急搬送ネットワークが各地で構築されています。この「情報提供セット」を用意しておけば、万が一の際にすばやく病状を把握して適切な処置をするために役立ちます。

(構成=井手ゆきえ)
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