怖い記憶が襲って人格が分裂するように
中学2年、美桜子さんはいじめから逃れるため、別の中学に転校。その学校でいじめはなかった。
しかし、美桜子さんに異変が起きた。
「またいじめにあうかもしれないと思うと、怖くて教室にいられない」
受診していた医師の診断は、いじめられたことによるPTSD。美桜子さんはいじめの体験、記憶から逃れることができなかったのだ。
中学2年の2月深夜。美桜子さんは突然起きだし、典子さんに言った。
「私は美桜子じゃありません。私は美桜子さんに、美桜子さんのことを教える人です」
美桜子さんの中の「誰か」が話し続けた。
美桜子さんがいくつかの人格にわかれていること、美桜子さんが自分自身のことを嫌いになったことがわかった。その後も「ランちゃん」「あやちゃん」と名乗る別の人格が表れては、典子さんに美桜子さんの心の内を明かしていった。
そして、中学1年の時にいじめられた話になると、決まってしゃくり上げるように泣いてしまうのだった。どうしても逃れられない、いじめの記憶。「普通の女の子」に戻りたい。そんな当たり前のことすらかなわない現実があった。
美桜子さんが書き残したメモにはこうつづられている。
「何でこんなコトになっちゃったの?!!! いつになったら、治るの?!!! このまんまじゃいつまでたっても、ふつうの女の子には戻れないじゃない」
高校のスピーチコンテストで選んだテーマは
美桜子さんからははつらつさが失われ、幼なじみもその変化に驚くほどだった。容姿も含め自分に自信を持っていた彼女。なのに、自分の顔を「かわいくない、ブスだよ」と言うようになり、自信を完全に失っていた。自らのルーツは、もう彼女にとって誇りでもなんでもなくなっていた。
過呼吸を起こしたりカッターナイフを取り出してリストカットをしようとしたりと不安定な状態が続いた。ただ、一時期フリースクールに通いながら治療を進めていた美桜子さんは高校にも進学できた。
そうした中、美桜子さんは高校1年の1学期、スピーチコンテストのために、いじめの経験をテーマに作文を書いている。
「自分との戦い」とタイトルをつけられた原稿はこう始まる。
「今、私は自分自身と戦っています。その理由は今から3年前、中学1年生の時に受けた『いじめ』にあります」
そして、美桜子さんが前を向いて歩み出していると感じられる言葉もあった。
「今まで自分のいじめについて言葉に書き表したことはありません。でも、勇気を出して今、ここに書き表そうと思います」