サケ養殖業では飼料の調達に遅れ

しかし、2019年に入ると景気減速が鮮明となり、ピニェラ政権は財政の緊縮を重視せざるを得なくなった。この一環としてチリ政府は公共交通機関の運賃引き上げを目指した。それに対してチリの国民は、政府が日々の暮らしを悪化させていると不信感を強め、一部のデモが暴徒化してしまったようだ。

それはチリ経済を一段と冷え込ませる恐れがある。首都サンティアゴでは政府へ抗議の激化から商業活動に支障が出ているようだ。物流の混乱から、チリにとって重要な産業であるサケ養殖業では飼料の調達に遅れが出ていると報じられている。抗議活動によって、銅鉱山の操業にも支障が生じているようだ。

この状況が続くと、チリでは追加的に景気が冷え込み、さらに社会心理が悪化して情勢不安に拍車がかかるという負の連鎖が深刻化する恐れがある。その懸念を反映して、9月末から11月上旬までの間、チリ・ペソは米ドルに対して2%弱下落した。

10月に入り、米中が貿易摩擦の“休戦協定”を結ぶとの期待が高まり、南米をはじめとする新興国通貨がドルに対して持ち直している。市場参加者はピニェラ政権の政策運営に懸念を抱いているといえるだろう。

資源依存度の高い経済は、一段と厳しい状況に

今後の展開を考えると、チリの政治・経済情勢は不安定に推移する可能性がある。その背景の一つとして、中国をはじめとする世界経済の先行き不透明感が徐々に高まりつつある。

中国では、共産党政権による経済対策の強化にもかかわらず減速に目立った歯止めがかからない。それに加えて、中国の債務問題も深刻だ。米国を中心にITセクターでは一部で持ち直しの兆しが見えつつあるものの、自動車や石油化学など他の産業は世界的な需要の低迷に直面している。

世界経済を支えてきた米国では、徐々に設備投資が鈍化している。労働市場の改善に足踏み感が出始めれば、米国の景気減速が一段と鮮明化する可能性もある。短期間で世界経済が上向く展開は想定しづらい。

基本的に、資源需要は世界経済の成長の動向に影響される。チリなど資源依存度の高い経済は、一段と厳しい状況を迎える可能性がある。中国の需要に依存して景気を支えてきた国に関しても同様のことがいえるだろう。

先行きの不確定要素が増えつつある中で経済を立て直すためには、政治の役割が重要だ。突き詰めていえば、チリの政治家が資源輸出に代わる経済運営の枠組みを世論に示して賛同を取り付けることができるか否かが重要だ。それができればチリ政府は、構造改革を進めるなどして経済の実力(潜在成長率)の向上を目指すことができるはずだ。