チリを直撃する中国経済の減速

チリの情勢不安定化には、中国経済の減速などが重要な影響を与えている。ある意味では、チリ経済は中国経済の減速に直撃されている。チリにとって、中国は最大の輸出先だ。チリの輸出の約30%が中国向けである。また、チリの輸出の50%程度が銅を中心とする鉱山資源だ。

2008年11月、中国政府は4兆元(当時の円貨換算額で57兆円程度)の景気対策を発動した。この政策により、中国では工業製品の原材料やインフラなどに使う銅への需要が高まった。それに加え、中国はより多くの粗鋼、セメント、ガラスなどを必要とし、世界各国から資源・資材を買い求めた。

経済の専門家が「中国が資源を“爆買い”している」と評するほど、中国の経済対策は一時的に資源需要を大きく押し上げた。

2010年に入ると、中国の景気刺激策などに支えられ、チリ経済の回復が鮮明となった。

2011年前半まで中国経済はインフラ投資などを進めることによって10%台のGDP成長率を保った。それは、チリをはじめとする新興国経済の持ち直しに大きな役割を果たしたと考えられる。2010年4~6月期から2011年半ばにかけてチリの実質GDP成長率は前年比で6%を超えた。

チリ人はあまり政治家を信用していない

しかし、2011年半ば以降、中国経済の成長率は右肩下がりの傾向にある。それに伴い、世界的に資源需要が低迷しはじめた。銅価格は不安定に推移し、チリのGDP成長率は徐々に低下した。2012年に入るとチリの四半期GDP成長率は5%台に低下し、2014年以降は景気減速が鮮明化した。2017年1~3月期にはマイナス圏にまでGDP成長率が落ち込んだ。

その後、2017年12月には米国で大型の減税法案が成立し、世界経済の先行き期待が一時的に高まる中でチリの景気も持ち直した。2019年に入ると中国経済の減速などを受け、チリの経済成長率は1%台にまで落ち込んでいる。

ピニェラ政権は経済環境の悪化を止めることができていない。一方、チリでは銅鉱山でストライキが増えるなど、民衆の不満は徐々に蓄積されていると考えられる。

それに加え、チリの人々は政治家をあまり信用していないとみられる。1970年代から1990年まで、チリは軍事独裁政権下にあった。多くの国民は、独裁政権時代の状況を記憶しており、政治への信頼感はあまり高くはないと指摘する政治の専門家は少なくない。

経済が好調に推移している間は所得の増加が不満や不信感を緩和し、大きな問題は起きてこなかったようだ。2018年に発足したピニェラ政権にとって、トランプ減税によって米国経済が一時的に勢いづき、世界経済が安定感を維持したことは、政治と経済の安定を目指すために重要な要素の一つだっただろう。