「いま死んでも仕事で困る人は誰もいない」
私は大変なショックを受けると同時に、名刺や肩書を介したつながりがいかにアテにできないものであるかを痛感しました。倍々ゲームで売り上げや社員数も増えていくと楽観していた事業計画書はすぐにゴミ箱に捨てました。
しょせん大企業の看板がなければ自分は通用しないのか……。仕事もなく、そのように思い悩むどん底の日々が続きました。
大手企業で管理職をしていた頃は、1日に100通以上も届くメールや分刻みの会議・打ち合わせで忙殺されていたのに、今はメールどころか携帯電話もまったく鳴らない。出掛けるあてもない。庭に現れた野良猫に名前をつけエサを与え話しかけたり、平日の日中に近所の公園で遊ぶ若いママと子どもたちをボーッと眺める毎日。
いま自分が死んでも仕事で困る人は誰もいない。自分は誰からも必要とされていない……。社会から締め出され孤立し、生きていく平衡感覚すら失ったような絶望感を覚えました。
どん底にいる自分を助けてくれたのは友だちだった
ただ、幸いなことに私には数多くの友だちがいました。もともと妻にも「あなたは会社員には向いていない」と言われるくらい、組織の枠からははみ出して生きてきた私は、社内外で友だちと呼べる人間関係を広げてきました。
ただし、何か魂胆があって人脈を形成してきたというわけではなく、自然に気の合う仲間が増えていったというだけです。会社を辞めたときも、社外の友人が30~40人集まって壮行会を開いてくれたものです。そのときに集まってくれた友だち、先輩、後輩がどん底にいる私にいろいろな手助けをしてくれたのです。
ITに疎い私のために手弁当で会社のホームページを作ってくれたり、営業経験のなかった私のために見積書の書き方を一から教えてくれたりと、いろいろなことで彼らのお世話になりました。なにしろ、大企業を飛び出して、仕事もない状況で、平衡感覚すら失いかけていたときでしたから、何の見返りも求めずに力を貸してくれる友だちの存在は大きな励みになったのです。