林鄭香港行政長官のしたたかな計算

前述の通りこの改正案は、習近平政権にとっては香港に巣くう「仇敵・上海閥」の資金源と人脈を一網打尽にするための強力な武器だ。一方で、窮地に立たされている上海閥にとっても、このまま座して死を待つよりは、同改正案提出によって自然発生する抗議デモに乗じてさらなる騒乱を引き起こし、「民主化運動」の名の下、徹底抗戦をすることができる。

さらには、上海閥と水面下で強くつながっている米国エスタブリッシュメント層(特にネオコン系人脈)の介入を誘発し、香港を世界中のメディアの監視下に置くことで、「一国二制度」という名目の下、香港を事実上の「治外法権(独立)状態」に維持することもできる。

つまり、改正案は激しい権力闘争を続ける習政権と上海閥の両者にとって好都合であり、林鄭氏はその提出によって、当面この両者の間をうまく泳ぐことができるわけだ。あとは、この戦いを制した勝ち馬に乗ることで、自身の政治的生き残りを図ることもできるだろう。

もちろん、林鄭氏がどこまでこれらを意識していたかは知る由もない。だが、結果的に彼女が推進した改正案提出が習近平政権と上海閥の全面衝突を誘発し、さらには「香港の中国化」をも一気に早めたことは間違いないだろう。

(続く)

関連記事
ここまで混乱した香港問題を救えるのは日本だ
香港独立運動の父「一番心配なのは日本」
中国版"ブラックリスト"に登録された人の末路
中国の親が子どもの登下校に必ず付き添う背景
文在寅政権を頑なにさせる韓国の「歴史的事情」