定年まで勤めあげる「幸福のモデル」は機能不全に陥った

退職代行サービス利用の是非は、一概には言えない。それは、個々人の判断による。ただ、働く以上、人と人のつながりや信頼関係は大切にしてほしい。別の見方をすれば、労使間での信頼関係が失われつつあるということだろう。これは問題だ。

突き詰めて考えると、わが国では雇用のミスマッチが深刻化している。この状況が続けば、わが国の経済には無視できない影響が及ぶ恐れがある。このため政府中心に労働市場などの構造改革を進めることが欠かせない。

1990年初頭に資産バブルが崩壊するまで、わが国経済は右肩上がりの成長を遂げてきた。特定の企業に就職し、年齢を重ねるごとに昇給・昇進を重ね、定年まで勤めあげることは当たり前だった。その意味で、終身雇用制度はわが国の“幸福のモデル”だった。

しかし、1997年の金融システム不安を境に状況は一変した。倒産することはないと考えられた大手金融機関が経営破綻するなど、わが国の幸福のモデルは機能不全に陥ったといえる。以後、転職を目指す人は増えてきた。

価値観に合った働き方を重視する人が増えている

つまり、自分自身の生き方を模索し、価値観に合った働き方を重視する人が増えている。まず、わたしたちは、この変化を冷静に認識しなければならない。その上で、政府を中心に構造改革を進め、先端分野や人手不足が深刻化する業種に経営資源が再配分されやすい状況を目指すことが大切だ。

労働市場に関して言えば、就業形態よりも、働いた内容、さらには、実績・成果に応じた評価を目指すことが大切だろう。それは、人々のやる気を引き出すことにつながる。仕事の内容や実績によって給与が増えれば、人々はよりよいパフォーマンスを目指し能力向上に取り組むだろう。それは、企業が新しい取り組みを進め、イノベーションを目指すために欠かせない要素の一つだ。

また、人手不足解消のためには、省人化投資に加え、外国人労働者の受け入れをさらに拡大することも欠かせない。政府がそのための制度設計に取り組み、企業に新しい取り組みを促すことが求められる。それが雇用のミスマッチを減らし、人々がより長期の視点で、満足感を高めながら働くことを支えると考える。

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