「人手不足倒産」の件数は過去最多に

人手不足の深刻化は、企業経営にとって無視できない問題だ。東京商工リサーチによると、2018年の「人手不足倒産」の件数は387件だった。これは過去最多だ。人手不足倒産の最大の要因は「後継者問題」である。それに加え、「求人難」から倒産に追い込まれるケースも増えている。人手不足による人件費の増加や、社員の転職などによって事業が行き詰まる中小企業もある。

業種別にみると、製造業、非製造業の両分野で人手不足は深刻化している。特に、サービス業では介護分野を中心に働き手の確保が思うようにいっていない。省人化に向けた投資を行う企業は増えているものの、人手不足への対応は容易ではない。

こうした状況から多くの企業は、「少しでも多くの人に、より長く勤めてほしい」と考えるようになっている。一度退職されてしまうと、代わりの人材を探すにはかなりのコストがかかる。採用できたとしても、業務に必要なスキルや能力があるかなど、不確実性も伴う。それを避け、事業を継続するために、企業は従業員の引き留めを画策するのだろう。

「すぐに辞めたい」と思う人にとっては渡りに船

「ここで辞められるわけにはいかない」という企業側の考えが強くなりすぎ、退職をめぐるトラブルも増えている。2017年度、全国の労働局に出された退職トラブルの相談は3万8954件に達した。これは、解雇相談よりも多かった。

業務量が増える中、人間関係に悩みストレスを感じている人は増えている。労働需給が逼迫ひっぱくしているため、その気になれば簡単に転職できる。リーマンショック後の状況に比べれば、転職市場はかなりの活況だ。

このため20~30代を中心に、退職代行サービスを利用する人が急増している。どういった心理で、こうしたサービスを利用するのか。「自分で退職を伝えるのが面倒だ」「一度やめると決めた以上、勤め先と交渉などしたくない」といった考えだろうか。人間関係が悪化し、上司に退職の意思を伝えることが難しい(できない)という人もいるだろう。スキル向上のために勤め先を変えるという考え方も一般的になりつつある。

退職代行サービスは昨年ごろから急速に話題となり、人材紹介会社などがサービスを提供している。利用料金は3万~5万円程度が多いようだ。勤め先への退職意思の伝達をめぐり、法的リスクへの対応も含めたサービスを提供する弁護士事務所も登場している。この場合、料金は上がる。それでも利用者が増えているようだ。「すぐに辞めたい」と思う人にとって退職代行サービスはまさに渡りに船なのだろう。