バブル経済や円安の時期にもエンゲル係数が上昇した
最近は、変化が一段落し、こうした新技術への家計支出が一時期ほど大きく膨らむ情勢ではないので、エンゲルの法則が再び働くようになり、生活水準の低下に応じてエンゲル係数が上昇しているのではないかと考えられる。
すなわち、パソコンや携帯電話が普及した時期に、本来上がるべきエンゲル係数がむしろ下がっていたので、それが生活水準の上昇が継続しているという錯覚を生じさせることになり、その結果、最近のエンゲル係数の上昇が突然生じた現象に見えることになったと捉えることができる。
なお、傾向線に沿った動きを示している時期でも、傾向線からの乖離が目立っていたケースが、2度認められる。
1つは、1980年代後半から90年代前半にかけての時期にエンゲル係数が傾向線よりやや上向いていたケースである。これは外食費が拡大した時期に当たっており、バブル経済の影響だと考えられる。
もう1つは、2015年~17年にそれまでの傾向と比べてエンゲル係数の上昇幅が大きかったケースであり、これは円安の進行による食料品価格の相対的上昇が影響している可能性が高いといえる。
エンゲル係数の上昇は日本だけの特異な事情ではない
日本のこうしたエンゲル係数の動きは、主要国と比較すると、どのような特徴が浮かび上がるのだろう。エンゲル係数の上昇は日本だけに見られる傾向なのだろうか?
じつは日本以外では家計調査は日本ほど本格的に行われていない。行われているとしても基準が同一だとは限らないので、諸外国の家計調査を使うわけにはいかない。そこで、作成基準が統一されているGDP統計(SNA)の国内最終家計消費の内訳から算出したエンゲル係数で各国の動きを比較してみよう(図表3参照)。
エンゲル係数の高さに関する各国の順位は、ほとんど変わっていない。かねてより米国が特別低く、日本、イタリア、フランスで高くなっている。スウェーデン、英国、ドイツは両者の中間のレベルである。こうしたレベルの差は生活水準の差というより、食品関連の価格水準が高いか安いかという点や、「食」に対してどれだけ出費を惜しまないかという点が影響していると考えられる。
米国は食費が安いし、食へのこだわりもそう大きくないのでエンゲル係数が低いのだと考えられる。1日の食事時間を国際比較すると、米国74分に対して、フランス、日本、イタリアは、それぞれ135分、117分、114分と長い。ドイツ、英国はその中間の105分、85分だ(OECD, Society at a Glance, 2009)。イタリア、日本、フランスのエンゲル係数が高いのはグルメ国だからという側面が無視できないだろう。