昨年9月から緊急避妊薬のオンライン処方を始めた
世界保健機関(WHO)は、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は、緊急避妊薬にアクセスする権利がある」として、複数の入手手段の確保を各国に勧告しているものの、日本では、女性にとって緊急避妊薬にアクセスしやすい環境にあるとは到底言えない。緊急避妊薬へのアクセスのハードルを下げるため、私が勤める「ナビタスクリニック新宿」では、昨年9月より、オンラインで緊急避妊薬の処方を行っている。
厚生労働省は当初、不適切な事例である可能性があると指摘したのだが、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の中にある「医薬品の投与を速やかに行わなければ患者の生命・身体に危険が及ぶ可能性が高く、対面での診療を待つことが望ましくない場合には、医師の判断の下、オンライン診療に基づき医薬品を処方することが許容され得る」という条件に合致するため、「海外では薬局で買える市販薬であり安全性すら問題にならない緊急避妊薬はオンライン診療に基づき処方することが許容される」と当院では判断したためだ。
私もオンラインで緊急避妊薬を処方しているが、勤務時間外に病院を受診できない、処方を希望して病院を受診したことを知られたくない、避妊できていたか不安だから内服したい、といった声が多く聞かれる。値段が高く、以前避妊に失敗した時は飲まなかったが、やはり怖いので今回は飲みたいと思った、という声もある。
一刻を争う薬を処方するつもりがあるとは思えない制限
現在、オンライン診療での緊急避妊薬の処方の希望は、多いときには1日5件ほど、少なくても1件はあるのが現状だ。今年の大型連休では、緊急避妊薬の処方のうち、半数近くがオンライン診療での処方だった。
緊急避妊薬を求める声の高まりや、緊急避妊薬の認知の高まり、そしてわれわれのようなクリニックでのオンライン処方の実態を受けてであろうか。昨年4月から保険適応となったオンライン診療における、緊急避妊薬の処方の是非について、今年に入って厚生労働省の検討会で議論されるようになった。「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」だ。だが、この検討会も、世界の流れとは真反対に方向へと舵を切っていると言わざるを得ない。
6月10日、緊急避妊薬のオンライン診療での処方を限定的に認める指針改定案が厚生労働省の検討会で了承された。だが、処方できるのは産婦人科医と研修を受けた医師に限定する、不正転売を防ぐために処方は1回1錠とする、薬剤師の前で服用させる、妊娠の有無を確認するため服用から3週間後の対面受診を求める、「女性健康支援センター」などの相談窓口で情報提供を受けた上で相談窓口の医師が対面診療とオンライン診療のどちらが適切かを判断するなど、さまざまな制限が課せられている。一刻を争う薬を処方するつもりがあるとは到底思えない。