消費者が値段の変化を意識するタイミング
消費者は、頭の中に抱いている内的参照価格を基準に、価格の高低を評価しています。内的参照価格に近ければ多少価格が変動しても鈍感ですが、参照価格から一定以上、離れると反応します。
たとえば内的参照価格が1万円だとして、9000円や1万1000円の場合は安いとも高いとも感じにくいですが、8000円や1万2000円になると、途端に安いと感じたり高いと感じたりする、ということです。参照価格より価格が高い場合は「損失」、参照価格より価格が低い場合は「利得」と知覚されます。
また、額が同じなら、人は利得よりも損失に強く反応します。価格が100円下がったときの喜びより、100円上がったときの痛みのほうが大きく感じられるということです。これは、人間の損することを避けたい気持ち、「損失回避性」という心理に基づきます。これらをまとめると、価格に対する効用(効用関数)は図のようなグラフで表すことができます。
ここでは、縦軸が効用、横軸が価格です。効用関数は参照価格の近辺では平らで、価格がある閾値(限界値)を超える(損失)と満足度が下がり出し、価格がある閾値より安くなる(利得)と満足度が上がり出します。そして、効用関数の負の傾きは利得より損失の領域で大きくなります。一般的に、損失と知覚される区域の傾きは利得と知覚される区域の傾きの約2.5倍ということが、多くの実験で確かめられています。
値引きは大胆に、値上げは少しずつ
ここからビジネス上の示唆が、いくつか得られます。
まず、参照価格は環境や経験に影響を受けるため、状況や人によって異なるということです。同じ500ミリリットルのコカ・コーラでも、買う場所が自販機かコンビニかスーパーかで参照価格が異なってきます。
同じスーパーでも、主に高級スーパーに行くAさんと、主に格安スーパーに行くBさんとでは、参照価格が違います。したがって、売り手は価格を設定する際に、ターゲットとしている顧客の参照価格を把握することが重要です。
また、価格が変わっても、その変動幅が小さいと顧客は反応しません。売り手が値引きセールをする際は、閾値を超えるまで価格を下げないと効果が出ません。逆に売り手が価格調整のために値上げをする場合は、価格が閾値を超えなければ売上は下がらないでしょう。そのため、売り手にとって、顧客が利得と損失を感じ始める価格の閾値を知ることは重要です。そして値引きは大胆に、値上げは少しずつ行うべきです。