価値の大きさは金額に比例しない

先ほどの図は、話を単純化するために利得と損失の領域での反応が線形(直線)になっていました。一方、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンと心理学者トベルスキーが提案したプロスペクト理論では、心理物理学による人間の主観的な感覚量とリスク選好を考慮して、効用関数(彼らは価値関数と呼びました)に下の図のような非線形(曲線)を仮定しました。

この価値関数から以下のようなことがわかっています。

まず、価値の大きさは金額に比例しない(つまり直線ではない)ため、金額が2倍になっても、その価値(満足度)は2倍にはならず、2倍弱(1.7倍ぐらい)になります。したがって、2倍の金額を半分の確率で得るよりも1倍の金額を確実に得るほうが、満足度が高くなります。

同様に、損失が2倍になっても、その価値(不満足度)は2倍にはならず、2倍弱(1.7倍ぐらい)になります。すると、2倍の損失を半分の確率で負うほうが、1倍の損失を確実にこうむるより、まだましになるのです。

損失は統合されたほうが満足度が高い

では、複数の利得や損失があった場合はどうでしょうか。宝くじが当たった例で考えてみます。10枚の宝くじを買った際、1枚の宝くじで1万5000円が当たったときに得られる満足度よりも、1枚の宝くじで1万円当たったときの満足度と、もう1枚の宝くじで5000円当たったときの満足度とを足し合わせたほうが、より満足度が高くなります。つまり複数の利得は分離して受け取ったほうがうれしく感じるのです。

同様のロジックから、大きな利得と小さな損失は統合、大きな損失と小さな利得は分離、複数の損失は統合するほうが満足度は高まることがわかっています。つまり、今回の本題である値上げと増税のような、複数の損失は統合したほうがよいということです。

たとえば単品でカーナビを買うことには抵抗があっても、新車を買った際には抵抗なくオプションでカーナビをつけたという経験をした方もいると思います。まさに複数の損失は統合したほうがよいということの表れです。