小島正美『メディア・バイアスの正体を明かす』(エネルギーフォーラム)

食料と農業の関係でいえば、科学技術の力で農業の生産性を高めていくことはとても大切である。フランスやアメリカでは、小麦やトウモロコシなどの面積あたりの生産性は、1950年代に比べて3~4倍も向上した。少ない担い手と面積で穀物の収量を上げていくことができれば、今後人口が増える世界の食糧問題の解決にもつながる。

そもそも私たちが手ごろな価格でパンや豆腐などを食べられるのは、海外の輸出国(アメリカやカナダ、豪州など)での高い生産性のおかげである。食品の価格が安ければ、生活費の中で余ったお金を余暇や教育などに支出できる。

そうした生産性の向上は、遺伝子組み換え技術や化学肥料、農薬、農業機械など、さまざまな科学技術が発達した結果である。だがメディアの世界では、科学技術による生産性の上昇を評価するニュースは少ない。

効率性と技術力を否定してどうする

国全体を見たとき、生産性の向上なしに豊かな生活はありえない。スイス(人口約850万人)を見てほしい。1人当たりの国民所得は、年によって異なるが長い間世界2~5位だ。スイスにはコーヒーでおなじみのネスレ、ノバルティス(製薬企業)、シンジェンタ(農薬や種子、遺伝子組み換え作物などのトップ企業。中国の企業に買収された)、チューリッヒ保険、アリスタ(製パン)など、名だたる多国籍企業がいくつもある。

それらの企業が生み出す富で、スイス国民は豊かな生活を維持している。世界中で彼らの商売が成立しているのは、彼らが世界中の消費者のニーズに合った商品を開発して売っているからだ。

科学技術に保守的な態度を示す西欧人でも、まさかこうした優良企業をつぶせ、とまではいわないだろう。西欧人は伝統や歴史を重んじるが、その一方でこういう優良な企業を育てている。西欧は戦略的でしたたかである。

同様に、日本の富と雇用をつくり出しているのはトヨタ、花王、味の素、ソニー、クボタ、サントリー、イオンなどの多国籍民間産業である。その民間産業に求められるのは、効率性と技術力を備えた競争力だ。新聞社自体が民間産業のはずなのに、そこで働く記者たちの発想が「モノより心」では、日本は世界から取り残されていくだろう。

小島正美(こじま・まさみ)
食生活ジャーナリストの会 代表
1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後、毎日新聞入社。松本支局などを経て、東京本社・生活報道部で主に食の安全、健康・医療問題を担当。生活報道部編集委員として約20年間、記事を書いた後の2018年6月末で退社。東京理科大学の非常勤講師も務める。『誤解だらけの放射能ニュース』『メディアを読み解く力』など、著書多数。
(写真=PIXTA)
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