この記事はまず「種子は企業の知的所有物ではない。みんなの公共財だ」という考えを伝え、途中で「企業利益と効率化だけを目指せば、日本で種を生産する土台が崩れて自滅してしまう」「お米が企業の金もうけの道具にされる」と主張する学者や料理研究家の声を載せ、最後に「経済の論理で瑞穂の国はどこに向かうのだろうか」と結ぶ。
40年前から変わらない記者の思考パターン
こういう記事を読んでいつも思うのは、記者にとって、「企業の利益」「効率」「生産性」は「悪」のようだということだ。旧モンサントをはじめとする海外の多国籍企業も、たいていは悪の象徴として登場する。環太平洋連携協定(TPP)(環太平洋パートナーシップ協定)に反対する学者の主張は正しく、TPPのメリットを説く学者は記事で取り上げるのにふさわしくないかのように、扱いに差をつけられもする。こういう記者たち(もちろん、メディアには右も左もあるが、主に毎日や朝日、東京など主要な新聞社にいる多くの記者を指す)の思考パターンは、私が記者を始めた約40年前から変わっていない。
種子法の廃止に関していえば、旧モンサントの日本法人が「とねのめぐみ」というイネの品種を開発しているが、奨励品種にもなっておらず、そもそも日本法人の社長に聞いても、日本市場に魅力はなく、関心はないというのが真実である。
日本市場は大きなマーケットではなく、魅力が薄いのだ。農水省は国内の企業を中心にもっと種子の開発に参入してくださいと懸命に呼びかけているが、民間企業が思ったほど参入してこないというのが実情である。
海外の巨大企業が日本の市場に新しい商品を出すのが悪いというなら、アマゾン、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、マクドナルドなどはどういう扱いになるのか。彼らはみんな悪徳企業だとでもいうのか。その理屈でいけば、世界中に進出している日本のトヨタは悪の範疇に入るはずだが、自国の多国籍企業が責められることはほとんどない。
いうまでもなく、野菜や果物の種子はすでに「サカタのタネ」や「タキイ種苗」など民間企業が供給しており、国や自治体が管理しているわけではない。民間企業が開発したトマトやピーマンなどの種子を農家が買って、その野菜や果物を消費者が食べているという構図が長く続いている。そこに何か不都合があるかといえば、何もない。伝統野菜の自家採種を禁止する法律があるわけではなく、在来の種子を守りたい人は守っていけばよい。
もし民間企業の参入を悪だというのなら、野菜や果物の世界で本当に民間企業の参入のせいで消費者や国が損失を被っているかを調べ、民間企業の「横暴」ぶりをリポートできれば、おもしろい記事になるだろう。いつも同じ顔ぶれの反対論者だけの意見を並べるのではなく、先例となる野菜や果物の現場で何が起こっているかをきちんと報道してほしい。