【菊澤】黒田投手同様に、人間として興味深いと思うのは、アメリカとの戦争は無謀だと知りつつも、連合艦隊司令長官の任を受け、真珠湾攻撃を指揮した山本五十六です。損得計算をすれば、99%日本が負けることはわかっていた。でも戦った。その判断を、山本七平氏は空気によるものだと言っていますが、私は空気ではないと思います。彼は、損得計算を超えて、軍人として正しいと価値判断をしたのだと思います。それが、彼の品の良さであり、真摯さです。

作家・元外務省主任分析官 佐藤 優氏

同じくパナソニックの創業者・松下幸之助も、損得計算を超えた経営をする品の良いユニークな人物でした。非常に人間的です。だから赤字になっても、人はついてくる。そんな人間的魅力が、彼にはあります。

【佐藤】コンプライアンスも法令順守ではなく、先生のお言葉だと、下品なことをしないということですね。『神皇正統記』でも、北畠親房が、どういう人材を登用するかについて、まず品だと言っています。能力や経験だけで登用するとうまくいかない。品を重視しろと強く言っています。

あら探しは簡単、褒めて育てよ

【菊澤】損得計算が速い学生は山ほどいますが、正しいかどうか価値判断もできる品の良い学生は10人に1人いるかどうかです。

例えば、2人の学生が授業の個人発表直前のギリギリまでプレゼンの準備をしているときに、ロジックの間違いに気づいたとします。そのとき1人は間違いがわかっていても、40枚のスライドを使ってプレゼンをした。もう1人は誤りを発表することに躊躇し、スライドが10枚ほどのプレゼンしかできなかった。この場合、本当の事情を知らない人間から見ると、40枚のスライドでプレゼンした学生のほうを、熱意があると評価するでしょう。しかし、10枚のスライドでプレゼンをした学生は、正直さを選んだのです。教師は、これを見抜いて、褒めなければならないのです。

【佐藤】褒めるって、すごく重要です。私は外務省で研修指導官をやったことがあるんですが、「きみ、ここが足りない。これがダメだ」とあら探し型でやる指導官の場合は、新人が伸びていかないんです。

【菊澤】否定をするのは論理的矛盾を見つければいいだけなので、少し頭が良ければ簡単にできますが、褒めることは意外に難しい。論理を超えて、見えないものを見ようとする想像力が必要だからです。

企業でも、「見える化」ばかりに注力するのではなく、リーダーは見えないものを見ようとすることが大切です。