ちなみに国公立と私立では、報酬も異なる。医師の報酬は国公立よりも私立のほうが高いと言われる。いい報酬を支払ってでも優秀な医師を確保したいという私立病院の思惑があるからか。一方で看護師や薬剤師などの報酬は国公立のほうが高い。公務員と同様、年齢とともに右肩上がりで上昇していくからだ。国立病院に勤務する看護職員の平均年収が約529万円なのに対して、私立病院(医療法人)は約455万円(注1)。看護師長クラスになると給与は約740万円と高水準。「私立病院なら同じ役職で200万円程度は下がるでしょう」(木村氏)というから、結構な差だ。国公立は福利厚生もいい。
注1 「第21回医療経済実態調査」厚生労働省、平成29年実施
「育児休業は最大3年取得できますから、3人出産すると9年間は病院に戻ってこないと言われるほどです」(木村氏)
長年のブランクがあれば、最新の医療技術にはついていけない可能性もある。もっと言うと、よほどのことがない限り退職勧告されない国公立病院より、危機感がある私立病院のほうが活気が生まれる可能性は高いだろう。
医療費の面ではどうか。病院が受け取る診療報酬は、一律で、同じ治療や検査なら、国公立も私立も変わらない。
「ただ最近は、質の高い医療を提供する病院には、診療報酬が加算される制度があります」(伊藤氏)
例えば、医療の安全性を向上させるために専従・専任の看護師や薬剤師を配置している場合に加算がある。あるいは医師の忙しさを緩和するため、書類の作成などを補助する医師事務作業補助者を雇っている場合も対象だ。
診療報酬が加算されれば、患者の自己負担も増えることになるが、3割負担とすればそれほど大きな違いにはならない。であれば、加算が適用されている病院を利用したほうが質の高い医療を受けられる可能性が高いということになる。診療報酬の加算は明細書に記載があるので、一度確認してみるといい。
医療技術はどうか。
「国立病院は政策医療を担ってきた部分もあるので、専門性の高い医師が多いのは事実です」(木村氏)
政策医療とは、私立病院では予算の関係で十分に提供できない医療分野を国立病院などで担うもので、がんや精神疾患、腎疾患など19分野がある。やはり患者数が少ない難病や重篤な病気に罹った場合は、国立病院へ行ったほうが名医の診察を受けられるのか。
「いきなり国立病院へ行くのはお勧めできません」(木村氏)
国立病院には得意分野がある。政策医療も担っている分野は病院によって違う。患者自身が自分に合った国立病院を判断することは難しいのだ。