会議は膠着状態に陥った。立石は説明を終え、誰も発言しようとはしない……。

そのときである。社外取締役で慶應義塾大学教授の印南一路氏が口を開いた。

「立石さん、これつくってください。僕は買います。これがあったら重たいパソコンを持ち歩かなくてすむ。ぜひ、つくってください」

会議の雰囲気は一変した。印南は賛意を示しただけでなく、「買いたい」と断言した。「開発に賛成」と「出たらすぐに買う」では言葉の重みが違う。

印南の発言を聞いた社長の宮本は「よし、やろう」と決めた。

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ヒットにつながるアイデアは「多数決」からは生まれない!

「出席者は15人でした。そのうちひとりが、値段はいくらでもいいから買うと言ったのです。もし15人にひとりが買ってくれるとすればヒットするかもしれない。だって今どき、万人が買う商品なんてありえません。15人にひとりが確実に買ってくれるとしたら、それは決して少ない数ではない。たとえば国民の10%が買ってくれるとしたら、1200万台が売れるかもしれないということですよね。それならやってみよう、と。

だいたい私は企画の開発会議なんてものは多数決で採用不採用を決めるものじゃないと思っていました。たとえ賛成が少数しかいなくても、開発者の情熱が伝わってくればやることにしていたのです。巷間、印南氏のひとことがポメラ開発を決めたみたいなストーリーになって伝わっていますが、本当は私が評価したのは開発者の熱意です。絶対にやりたいという気持ちが伝わってきました」

こうして、ポメラは世に出た。