経営学の眼●二番手を脱する「アメリア・エアハート」効果
流通科学大学学長 石井淳蔵

「ポメラ」は私も欲しいと思いますね。機能を文字入力に絞り込み、起動の速さと軽量化を図った製品はほかにありませんから。

商品開発のプロセスを見ると、開発会議に印南一路教授が出席していたのが大きなポイントです。業界に詳しい人ばかりだと、かえって商品化するうえでゆき詰まる危険性があります。

マーケティングの鉄則は市場カテゴリーで一番になることにあります。飛行機で大西洋をはじめて単独横断したリンドバーグの名前は、今なお多くの人の記憶に刻み込まれていますが、二番目に横断した人の名前は誰も知りません。

では、一番手になれない者はどうすればよいか。その答えはアメリア・エアハートという女性の名にあります。日本ではあまり知られていませんが、彼女は女性としてはじめて大西洋を単独横断し、アメリカでは広く知られた存在です。つまり「人類初」というカテゴリーに「女性」という一つの切り口を入れることで新しいサブカテゴリーが生まれ、アメリア・エアハートはその一番手になったからこそ名が記憶されているのです。

ノートパソコンに対し、ポメラはサブカテゴリーを確立したと言える段階ではありませんが、そうなる可能性はあります。そのためには、同社の商品「テプラ」がそうだったように、この商品をうまく育てていくことが大切です。

具体的には、人々がポメラをどう使っているかを観察し、「消費者インサイト」、つまり消費者の独特の使い方を見出していく。そして、消費者インサイトを製品に反映していくのです。

新商品の育成がキングジムの最大の課題だと思います。新商品発売後、消費者がそれをどう使っているかを観察して次商品につなげるステップが必要です。

(尾関裕士=撮影/コラム:石井淳蔵 流通科学大学学長 構成=宮内 健)