それでも景気後退の引き金を引く可能性

しかし、負担が3割強にとどまるとしても、経済への影響は3割強にとどまるとは限らない。なぜなら、幼児教育の無償化や社会保障の充実で還付の恩恵を受ける世帯があったとしても、購入する時の商品が安くなるわけではないので、痛税感は変わらないからである。

そこで、内閣府が増税の影響などを計算する際に用いる最新のマクロ計量モデルの結果を用いて、前回と今回の消費税率引き上げに伴う経済への影響を計算してみた。まず、前回の影響としては、増税前の駆け込み需要で前年の経済成長率を+0.7%押し上げたが、増税した年の経済成長率を▲1.5%も押し下げたと計算される。

次に、今回の消費増税だけの影響を試算すると、増税前年の経済成長率は、駆け込み需要の影響で+0.4%押し上げられたが、引き上げ後の1年目の経済成長率は▲0.8%押し下げられることになる。しかし、今回はたばこ税や所得税の増税で0.3兆円負担が増える一方で、2.4兆円分が幼児教育無償化や社会保障の充実に充当されるため、トータルで2.1兆円の所得減税の効果が加わる。また、負担軽減のため、ポイント還元やプレミアム付き商品券、住まい給付金や次世代住宅ポイント制度など一時的な予算措置も加わる。

しかし、これらの効果は増税後1年間の経済成長率を0.1%押し上げる程度にとどまる、従って、こうした増税対策を加味しても、増税後1年間の経済成長率の押下げは▲0.7%程度と、前回増税時の4割強の影響が出ると計算される(図表3)

さらに、今回の増税はタイミングも良くない。なぜなら、2020年東京五輪の特需がピークアウトする時期や、米国経済の減速が生じる時期と重なる可能性があるからである。実際、1964年開催の東京五輪前後の経済成長率を見ると、経済成長率のピークは五輪開催からちょうど1年前の1963年10~12月期であり、その後は開催まで経済成長率が下がり続けていることがわかる。

背景には、五輪に向けた建設投資の勢いが1年前にピークアウトしたことがある。2020年8月開催の東京五輪にあてはめると、2019年7~9月期が成長率のピークになる可能性があり、実際に国立競技場の完成も今年の秋となる。

また、2018年春から減税の効果が出てきた米国経済も、利上げや貿易摩擦の影響もあり、2019年後半になると減税効果が一巡して成長率の減速は避けられない。このため、いくら手厚い消費増税対策を実施しても、外部環境次第では税率引き上げが景気腰折れの引き金を引く可能性があるだろう。