DVや虐待があれば被害は永続化する

日本の離婚は、約9割が協議離婚だ。残りの1割つまり10%のうち約9%が調停離婚で、裁判離婚は1%にすぎない。冷静に話し合えて、離婚後も子にとって親との交流が必要と判断できる両親であれば、現行法の単独親権のままでも、実質的に交流できるように、面会を実行するだろう。調停離婚は、年間2万件余りである。家庭裁判所に現れるような対立が深刻な離婚事件は、背後にDVや児童虐待を抱えている可能性が高い。それらへの対応がなければ、面会交流や共同親権は、その被害が永続化することを意味する。

もちろん離婚後も親子の交流があるほうが望ましく、子の奪い合いには時に強制力のある介入も必要である。しかしそれは物理的・精神的暴力から子を守りながら行わなければならない。パーソナリティの偏りや精神的暴力の有無などを見抜く力のある精神科医や臨床心理士などのプロフェッショナルが調査・介入して、加害者に働きかけてリスクを軽減して初めて可能になる。

ドイツやフランスであれば、婚姻中から児童虐待対応としてこのような介入がある程度、行われているだろう。しかし日本では、介入されないまま、離婚紛争として家庭裁判所に現れる。日本の家族法に必要なのは、家族への支援という公的介入であって、むき出しの力関係のなかに放置される家族への道徳的教化や義務づけではない。

“逃げる自由”を奪う「共同養育支援法」

大家族や地域社会での「群れによる育児」が失われた現在、被害者が頼れるわずかな支援は、行政の相談窓口である。近年提案されている「共同養育支援法(旧:親子断絶防止法)」などの立法案は、地方公共団体等に両親の継続的関係の維持を促進する義務を課すことが盛り込まれている。子供を連れて逃げるために被害者が頼れる行政支援を封じることによって、この最低限の逃げる自由を奪いかねないものである。

さらに離婚後の共同親権の立法提案も、日本の現状では、その果たす機能に不安がある。もとより離婚後も両親が継続的に子供と面会交流できるほうが望ましいが、そのために不可欠な条件は、面会交流の際に子供の安全を図ることができる公的支援である。それが確保できていない現状では、子供の基本的人権保障という観点から、共同親権の強制には消極的にならざるをえない。

水野紀子(みずの・のりこ)
東北大学大学院法学研究科 教授
1955年生。東京大学法学部卒。同助手、名古屋大学助教授・教授を経て、1998年より東北大学教授。民法・家族法専攻。法制審議会の各種部会における民法改正など、立法作業にも従事する。近年の編著として、『信託の理論と現代的展開』商事法務(2014年)、『財産管理の理論と実務』日本加除出版(2015年)、『相続法の立法的課題』有斐閣(2016年)など。
(写真=時事通信フォト)
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