DV被害者が求めれば「別居命令」が出る欧米諸国

欧米諸国の家族法は、婚姻中でも家庭内暴力被害者が求めれば別居命令を下し、扶養料を取り立て、扶養料債務の不履行には刑事罰を科し、不当な親権行使には積極的に介入するという支援や強制を準備している。ハーグ子奪取条約では、このような国内体制が前提とされている。「国内で公権力に求めれば必ず救済する。従って、自分で逃げるな」という自力救済を封じる体制である。

翻って日本では、支援と強制が乏しく、DVや児童虐待などの家庭内暴力対策が極めて貧弱である。DVを見せることは深刻な児童虐待であり、子の脳の成長を損傷する度合いは、身
体的虐待やネグレクトよりも大きいといわれる。しかし子供に高等教育を受けさせるために、被害者は暴力のある家庭にとどまろうとする。そして、いよいよ限界をさとった被害者に残されているのは、逃げる自由しかない。自ら逃げて別居を実現することによって離婚が具体化するという、自力救済を前提とした家族法なのである。

虐待対応への公費が“桁違いに”少ない日本

児童虐待への関心は、悲惨な事件の報道によって高まっている。しかし日本における児童虐待対応施策の実情が西欧諸国のそれと大きく異なっていることは、それほど知られていないように思われる。まず虐待対応にかけられている公費が、日本は西欧諸国より、文字通り桁違いに少ない。この事実は、将来の日本社会に高価なツケとなってまわってくるだろう。

日本子ども家庭総合研究所の試算によると、虐待対応支援費用として支出されている直接費用約1000億円に対して、虐待の結果として生じる間接費用、具体的には精神疾患にかかる医療費、反社会的行為による社会の負担、自殺による損失などは約1兆5336億円にのぼるとされる。

より端的にイメージがつかめるのは、裁判所の判決数かもしれない。育児の下手な親が公的介入に同意すればよいが、同意しない場合は親の意思に反して介入する必要がある。行政権によるこのような強制介入には、司法の許可が必要である。ドイツにおける親権制限判決数は2万9405件(2015年)、フランスにおける親権制限判決数は9万2639件(2016年)になる。

ドイツの人口は、日本の約6割、フランスの人口は、日本の約半分である。日本の児童虐待対応がフランスと同じように行われているとすれば、人口比でいえば年間約20万件の親権制限判決が下されているはずだ。しかし日本の親権喪失審判数は、25件、親権停止審判数は、83件(2016年)である。