ローソンで高価格帯のケーキが売れる理由

一方、ローソンのスイーツ開発担当の坂本眞規子さんは「1万円の『スペシャルストロベリークリスマス6号』は、あっという間に完売しました」と、桁違いの話をする。

「あれこれ選べるケーキがほしい」という消費者ニーズをキャッチしているのは、セブンやファミマと同じ。約40種あるケーキの価格は2000~3000円台が主流というのも、他社と差はない。

「7000円や1万円という高価格帯のケーキが人気というのは、ローソンの特徴ですね」(坂本さん)

なぜコンビニで1万円のケーキが売れるのか。筆者は都会のセレブ主婦がまとめ買いしているのでは、と想像したが、答えはまったく逆だった。

「百貨店や専門店のない地方でよく売れているんです」(坂本さん)

これには膝を打った。テレビで映し出される高価な専門店ケーキに憧れ、「せっかくのクリスマスなんだから、1万円くらいするケーキを食べたい」と願う人が多いのは、周りに“買い場”の少ない地方なのだ。

この“憧れニーズ”をローソンは以前から読んでいたという。だから、毎年高価格帯のケーキを欠かさない。インスタ映えする豪華なケーキが全国どこでも近所で手に入る――これこそ、コンビニの存在価値ということだろう。

酸味が特徴の「ルビーチョコレートのショコラケーキ4号」(画像提供=ローソン)

「ローソンも今年は、小さめのケーキやアソートケーキが好調です。でも『食べたことのない味と出会いたい』というお客さまの気持ちにもお応えしたい」(坂本さん)

そんな思いで今年初めて仲間入りさせたのが「ルビーチョコレートのショコラケーキ4号」(3200円)だという。

カカオ豆の中にある天然成分から作られるピンク色のチョコが「ルビーチョコレート」だ。希少価値が高いためローソンほか一部のメーカーやパティシエしか使っていない。これを「差別化商品」として投入したところ、「例年以上に女性の予約が増えた」。

「おひとりさま」ケーキの新商品が増える

3社の話をまとめると「小さめ」「アソート」が、今年のコンビニクリスマスケーキのトレンドのようだ。だが、「ケーキ」というくくりでコンビニの販促戦略を深掘りすると、昨今新たな現象があるのに気づく。

12月初旬から「おひとりさま用」のケーキが売り場に数多く並ぶのだ。イチゴショートにショコラケーキ、チーズケーキ、モンブラン……各社手を替え品を替え、すでに新商品を続々と出しているのでチェックしてみてほしい。

「12月はケーキのニーズが高まる時期ですから、そのタイミングで個食用の品ぞろえも増やしていきます」(ローソン・坂本さん)

(左)個食ケーキが多いのも今年のトレンド/(右)「ウチカフェ」ブランドの個食ケーキも人気(撮影=吉岡秀子)

街がクリスマスカラーに染まるにつれ、ケーキやチキンが食べたくなる心理は、誰もが実感していることだろう。

しかし、改めて思う。かれこれ20年近くコンビニ業界を取材しているが、昔は「コンビニでオリジナルのクリスマスケーキを買う」という文化はなかった。それが今や、予約して買うパーティーケーキも、衝動買いできるおひとりさまケーキも、コンビニがトレンドの発信拠点だ。平成最後の師走、コンビニの進化を感じずにはいられない。

吉岡秀子(よしおか・ひでこ)
コンビニ記者
関西大学社会学部卒業。会社員生活を経て、フリーランス記者として独立。2000年代前半からコンビニ業界に密着した取材を続け、ビジネスや暮らしに役立つコンビニ情報を各メディア、講演などを通じて発信中。著書に『セブン-イレブン 金の法則』(朝日新書)など多数。
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