昼間の眠気で、仕事の効率ダウン
睡眠時無呼吸症の人は、睡眠中にいびきをかくが、途中でいびきがぴたりと止まり、その間呼吸も停止する。そしてしばらく経つといびきと呼吸が回復する、というサイクルを繰り返す。1時間に5回以上呼吸が止まると睡眠時無呼吸症だとされるが、重症の場合は40回以上止まる人もいる。
無呼吸になると、眠っている間、気付かないうちに体内が極端な酸素不足になり、それを補おうと体の緊張状態が続いて心拍数が上がる。その結果、脳や心臓に大きな負担がかかり、健康状態が悪化してしまう。狭心症や脳梗塞などを引き起こす可能性が高く、「こうしたほかの病気を伴う可能性を表す『合併率』は3~5%と、糖尿病と同じくらい高い」と宮崎氏は指摘する。また、糖尿病で肥満気味の人、塩分のコントロールでも改善されない高血圧や、心臓に問題がないのに不整脈などがある人は、睡眠時無呼吸症を起こしていることが多いという。「睡眠時の無呼吸を放置すると、8年目には死亡率が37%になったという、1980年代の調査結果もある。死因は脳梗塞や心筋梗塞などが多かった。つまり睡眠時無呼吸症は、死に至る可能性のある病気だと言える」と宮崎氏は話す。
睡眠時無呼吸症は、病気につながるだけでなく、仕事などのパフォーマンスにも大きな悪影響がある。昼間に強烈な眠気に襲われ、集中力が落ちたり、車の運転中や会議中に眠ってしまったりするなどの症状が表れるためだ。
2003年には、山陽新幹線の運転士による居眠り運転が発覚し、睡眠時無呼吸症に注目が集まるきっかけとなった。このときは事故にはならなかったが、その後もトラックやバスの運転手の睡眠時無呼吸症による居眠りが原因で引き起こされた事故は多い。このため国土交通省は、バスやトラック運送業者には、運転手に睡眠時無呼吸症の検査を行うことを推奨している。
仕事やスポーツ競技のパフォーマンスにも影響する。「大相撲の力士も、睡眠時無呼吸症の治療をしている人が多いと聞く」と宮崎氏は話す。
昼間の眠気のほかにも、さまざまな症状が現れることがある。頭痛や肩こりが起きる、熟睡感がないため9~10時間など長時間寝るという人も多い。また、無呼吸だと睡眠中も脳が活発になり交感神経が亢進(こうしん)し、膀胱が収縮しやすくなるため、頻尿になることもある。「頻尿で泌尿器科を受診した2~3割の人は前立腺肥大がなく、調べてみたら睡眠時無呼吸症だったというデータもある」と宮崎氏は言う。
いびきや無呼吸は自覚しにくく、眠気や頭痛、肩こりや頻尿といった症状も無呼吸が原因とは気づきにくい。「無呼吸症の患者は日本に300万人以上いると推測されているが、治療をしているのはそのうちの10分の1程度と、氷山の一角だ」と宮崎氏は指摘する。