そんな中、唐突にお茶の間に流れる15秒のCMだけで

「今宣伝されているあの商品は、このシステムが優れている」
「これまでに販売されていた商品とはこの部分がこれだけ違う」

などと、詳細に認知してもらうのはかなり困難と言ったほうが正しい。

まして自動車などだと、その特性や機能をすべて説明しようとすれば、どれくらい時間がかかるかわかりません。

だからこそ、日野自動車のCMでは、「記号だけはとにかく印象に残す」ということを目標とし、それで現場をまとめていきました。

もし記憶に残ったとしても、伝えたいことが、そのままきちんと相手に伝わるとは限りません。実感としては「初公開」もしくは「初対面」の場合、「伝えたい」ことの6割が伝われば十分、いやむしろ万々歳、というスタンスで臨めばいいのではないかと思っています。

ラジオCMは研ぎ澄まされている

そういう意味で、ラジオCMはとても参考にしています。

なぜならば、ラジオにはビジュアル面の情報がなく、その瞬間、音として伝える「言葉」や「記号」だけで勝負をしているからです。

ラジオCMは、短い時間に耳だけを経由して与える情報で、相手の印象にどう残すかをよく考え、研ぎ澄まして作られています。

意識して一度聞いていただくと、そのすごさがよくおわかりになるはずです。

「おもしろかった気がするけど、何の話をしたのか覚えていない」
「たくさんの人の中で、あなたのことは印象に残っていない」

もしコミュニケーションを通じて、相手にそんな感想を抱かせてしまうようなとき、その場に、強い「記号」が不足している可能性があると思います。

そんなときは、音やリズムを意識するのがいいかもしれませんし、オリジナルの“あだ名”や“略称”など、インパクトある記号をあえて使ってみてもいいかもしれません。

ともかくやりとりをする場面において、そして会話をする相手に対して、強い「記号」となるものは無いか、ぜひ意識して探してみてください。時には作ってみてください。

それを踏まえて会話の場に臨むだけで、きっと相手に残る印象が随分と変わってくるはずです。

そしてそれこそ僕の主張する「共感スイッチ」、その1つです。

浜崎慎治(はまさき・しんじ)
CMディレクター
1976年鳥取県生まれ、2002年TYO入社、13年よりフリーランス。手がけたCMにau/KDDI「au三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えてトライさん」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、トクホン「ハリコレ」など。ACCグランプリ、ACCベストディレクター賞、広告電通賞優秀賞、ギャラクシー賞CM部門大賞など受賞多数。これまでに100作以上手がけた「au三太郎シリーズ」はCM好感度、CM演出部門でいずれも3年連続1位(CM総合研究所調べ。2015年度-2017年度)。
(写真=iStock.com)
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